2007年刊行以来版を重ねるこの迷著には、驚くべき知見が書かれている。胎内記憶の拡大概念として、池川センセは「精子の記憶」「卵子の記憶」まで唱えておられる。ある男児、また別の成人男性は「精子のときの記憶」を語ったという。当然のように、ある女性は「自分が卵子だったとき」の「記憶がよみがえった」という。あのう、センセ、精子が男性になり、卵子が女性になるわけじゃないんですけど。センセは本当に医大を卒業されたのだろうか。
池川センセは胎内記憶の調査について小児科医たちに協力依頼をすると「そんな馬鹿げたことにつきあってられないと、嫌な顔をされる」と書いておられる。まだまだまともな医者の方が多数派で、ほっとする。
ところで、6月15日にテロ等準備罪(いわゆる「共謀罪」)が成立した。私はこの法律は不十分かつ遅きに失したのではないかと思う。
戦後日本最大のテロ事件は何か。1950年代初めの日本共産党による中核自衛隊の活動か。あるいは1972年の連合赤軍事件か。否。1995年のオウム事件である。一連の事件で死者29人、負傷者六千人の甚大な被害を出している。もし、オウム事件の前に、処罰対象も広げ、宣伝・煽動・協力者も含めて一網打尽にするテロ等準備罪が成立していたら、あの大惨事は防げたはずだ。
当然、ずっとオカルトを煽り続けてきた産経新聞も、社長以下論説委員たちの投獄を免れまい。
その場合、私の信頼する何人かの論説委員については、私は全面的に法廷闘争の支援をするつもりだ。海外亡命の手助けも惜しまないぞ。
●くれ・ともふさ/1946年生まれ。日本マンガ学会前会長。著書に『バカにつける薬』『つぎはぎ仏教入門』など多数。
※週刊ポスト2017年8月18・25日号