「この記述からもわかるように、薬の副作用で起きる味覚障害の原因は、大きく分けて二つあります。一つは薬の摂取により亜鉛の吸収能力が落ちてしまうこと。亜鉛は味蕾(みらい)細胞の再生に不可欠の栄養素で、味覚障害は亜鉛欠乏で引き起こされる例が多い。
もう一つは口渇、つまり唾液の分泌量が減って口が乾いてしまうことです。味というのは、食べ物が唾液に溶けて舌の味蕾に達して感じられるものなので、唾液が減ると、味を感じられなくなるのです」(笹野教授)
唾液の分泌は自律神経の働きで調整されるが、高血圧や呼吸器系疾患などの病気を抱えていると、自律神経に作用する薬を服用することになる。その結果、唾液の分泌が減ってしまうことがあるという。
独立行政法人医薬品医療機器総合機構は、日本で使用されている医薬品のうち4000種類以上に唾液の分泌を抑える作用があり、2000種類以上の医薬品が味覚障害を起こす可能性があると公表している。そこには、抗うつ薬、睡眠薬、降圧薬、コレステロール低下薬から解熱・鎮痛薬、胃薬まで幅広い薬剤が含まれる。
もちろん、副作用は薬の効能に伴うリスクなので、味覚障害の原因になるからといって、服用をやめてしまえば、もともとの病気のリスクが高まってしまう。笹野教授は言う。
「『自分は薬のせいで味覚障害かもしれない』と思ったら、まずは医師に相談してください。副作用リスクの少ない薬と取り換えることで、症状がおさまったという人も珍しくありません。病院では、患者さんの血液検査もして、血液中の亜鉛の量が少なければ、サプリメントを出すなどして、亜鉛欠乏由来の味覚障害も治療できます」
※週刊ポスト2017年10月27日号