一方マコトは某製薬会社傘下の財団から、より公平な社会を実現すべく掲示板〈ブラックボード〉を主宰する一族の長男〈ハルオミ〉を呼び戻すよう依頼される。マコトはハルオミ及び詐欺の黒幕に接近し、Gボーイズの動員を餌に敵に一泡吹かせる。だが〈「真実」が役に立たなくなったポスト-トゥルースの時代に贈る、流行おくれの真実の物語〉とあるように、シンジの古臭い純情も応援するのがマコト流だ。
「例えば特殊詐欺の問題は経済で語ることもできるけど、そうするとその皺寄せを被る人達の姿は見え難くなる。小説だからこそ描ける部分もあるんです。この20年、時代はいい方向には進まず、今後もオリンピックまでもたないくらい悪くなるだろうけど、その見え難い今を、物語ですくいとることはできるので」
その解決はいわゆる法の正義とは違う次元でなされ、金も学もないマコトたちは相手や街のためをひたすら人として考え抜くのである。
「この世の中、白黒つけられないことの方が多いのに、今の不倫なんて誘拐と同じくらい糾弾されるでしょ? もっとみんなの正義感がユルくていいと僕は思うし、それが個人の正義でしかないことはマコトも重々わかっている。しかも彼は今の自分に満足できる人間。できることはやり、できないことはケセラセラという地に足のついた楽観主義が、時々の今を生き抜く彼の最大の武器かもしれません」
人は生きる時代を選べない。だがどんな時代であれ、人と交わることで道は拓けると、町の不良にもお偉方にも本音で関わるマコトはなおも信じるヒーローなのだ。
【プロフィール】いしだ・いら/1960年東京生まれ。成蹊大学経済学部卒。フリーター、広告会社勤務を経て、コピーライターとして独立。1997年『池袋ウエストゲートパーク』で第36回オール讀物推理小説新人賞を受賞しデビュー。2003年『4TEEN』で第129回直木賞、2013年『北斗 ある殺人者の回心』で第8回中央公論文芸賞。他に『娼年』『下北サンデーズ』『逆島断雄と進駐官養成高校の決闘』等。Eテレ「ハートをつなごう」「ららら♪クラシック」の司会も。174cm、70kg、A型。
構成■橋本紀子 撮影■国府田利光
※週刊ポスト2017年10月27日号