「僕にとってシリーズの20年は作家生活の20年でもある。元々はミステリー系の新人賞だからそれっぽいものを書いて応募した、偶然の産物だったんですけどね。マコトが下から目線なのも自分がそうだったからです。
地下鉄の工事現場で働いた時なんか、昼休みに地上に出て道端で寝るんですよ。肉体労働でヘトヘトだから。すると目の前をOLさんのキレイな足が通るんだけど、地べたに平気で寝るヤツのことなんか眼中にないわけね。その置いてきぼり感が面白くもあったし、世間を物理的にも下から見る目線が、このシリーズのトーンを決めたんだと思います」
例えば第1話「滝野川炎上ドライバー」で宅配ドライバー〈ジュンジ〉と彼の息子〈トオル〉を危機から救うマコトは、今やIWGP名物となったモノローグをこう始めている。
〈おれたちが生きているのは、即決裁判が許された情状酌量のない時代だ。みんな考えるのが面倒で、善悪をさっさと悩まずに決めてしまいたいのである。とくにネットで見かけた他人のトラブルについてはね〉
ジュンジの律儀さは近所でも折紙付き。マコトの母は、妻と離婚後に週1度しか会えない父子が毎回ファミレスに行くのは可哀相だと言って彼らに手料理まで振る舞うが、そのトオルがある日、尋常でない様子で店に駆け込んでくる。その腕には傷が……。
やがてマコトはトオルの腕の傷は母親の恋人〈溝口〉の仕業だと睨むが、先手を打ったのは向こうだった。溝口はジュンジがトオルを虐待しているとネット上の〈正義の炎上放火魔〉たちを焚きつけ、彼の事務所までが袋叩きに遭ったのだ。