筒状の黒い袋に手を入れる「袋競り」の様子


 福岡県付近などの漁場から下関に水揚げするのも、こうした理由が大きいと濱田教授は説明する。下関ふく連盟の宮田裕二事務局長は「大正時代から下関はすでにフグの集積地として有名でした。当時の下関はフグ料理でも名を馳せ、処理業者が集まってきた背景があります」と話す。

 競り人の松浦さんによると、約30年前は年間約2000トンの天然物が南風泊市場に入ってきていた。しかし、現在はその15分の1にまで減っている。一方、養殖物は近年、技術の向上や餌の工夫などで品質も高くなっており、全国の産地でブランド化の動きも出ている。

「出荷の1か月前頃から最後の仕上げとして、養殖トラフグにサバやイカナゴを食べさせ、より旨味が増すように調整をしている業者もいます。この数年間で、旨味追求と品質管理が養殖業界のスタンダードになっています」(濱田教授)

 天然物と養殖物はどのくらい味に違いがあるのか。気になるところだが、市場関係者に問うと「きちんと処理され料理として出されれば、一般の人にはほとんどわからないのでは」との答えが返ってきた。ある仲卸人は「天然物は、鍋にアラと水を入れて煮た際に出る旨味でわかる」と話す。両者を食べ比べてみるのも楽しいかもしれない。

 来年、初代内閣総理大臣の伊藤博文が山口県でフグ料理を解禁してから130周年を迎える。「フグを食べたい」「安全に食べさせたい」という人々の情熱と努力に思いを馳せ、美味しいフグを食べられる幸福を噛みしめたい。

撮影■岩本朗 取材・文■上田千春

※週刊ポスト2017年12月1日号

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