かくして、中国人と名古屋人は、金銭感覚にシビア、先祖を大切にする、コネがものをいう、などの共通点があると指摘する『中国人と名古屋人』ができあがった。
賢明なる読者はお気づきだろう。内村鑑三の言う「中国人」とは、山口人、広島人、すなわち中国人のことである。山口人、広島人、名古屋人は小賢しく、明治の新時代を巧みに生き抜いているが、それは真の日本のためにならない、と、内村は批判したのである。海を隔てて西にある大国の人のことなら、当然「支那人」である。
岩中祥史は、内村鑑三の小文を誤読し、その誤読を前提にまるまる一冊『中国人と名古屋人』を書き上げた。しかも、その十年後に出した『名古屋人と日本人』では、名古屋人は勤勉でドイツ人に似ているとする。
◆ブスの名産地って?
岩中祥史のトンデモ名古屋論は、不思議なことに誰も批判しない。それどころか、参考文献として引用する例も散見する。名古屋の隣の犬山市では市会議員が岩中祥史先生講演会まで開いている。トンデモ汚染は広がりつつある。
もう少し罪のない、いや、罪はあるのだが、程度の軽微なトンデモ名古屋論も多数ある。名古屋は三大ブス産地説である。少し前の本では、三遊亭円丈『名古屋人の真実』に出ている。「昔から言われている日本のブスの三大地帯というのがある」「水戸、名古屋、仙台、この三つがブスの三大名産地」。
こんなことは「昔から言われて」はいない。この珍説が聞かれるようになったのは、ここ三十年ほどだ。「昔から言われて」いるのは、名古屋と京都は美人の名産地説である。『朝日新聞の記事にみる──東京百歳』に、明治四十二年九月一日の記事が載っている。
「美人の本場は名古屋でも、肌の滑かなは京の女、鴨川の水で磨いたのを優なるものとして、東は盛岡西は大阪の輸入もある」