世間では泡沫候補と呼ばれる選挙に出続ける人たちを、フリーランスライターの畠山理仁氏は愛と尊敬をこめて無頼系独立候補と呼ぶ。20年間追い続けた彼らの独自の戦いを『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』(集英社)としてまとめ、畠山氏は2017年第15回開高健ノンフィクション賞を受賞した。2013年に解禁となったネット選挙、18歳選挙権の開始などで選挙は今後、どのような変化をしてゆくのか、畠山氏に聞いた。
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──独立系候補といえば、ユニークな政見放送がYouTubeなどの動画サイトで共有され、人気を集める現象も起きています。
畠山:都知事選の政見放送は最高のコンテンツだと思います。衆議院議員選挙では無所属だと政見放送もできません。でも、東京都や大阪府などの首長選挙では、すべての立候補者が等しく政見放送ができる。大都市選挙だと全国から注目も集めやすいので、去年の東京都知事選挙は小池百合子さん、鳥越俊太郎さん、増田寛也さんの3候補以外に18人、合計21人が立候補しました。
東京都知事の任期は4年なので、何も起きなければ都知事選は4年に一度です。僕は都知事選を、オリンピックよりも楽しみにしています。他人が取る金メダルも素晴らしいものですが、自分が取られる税金の行方がどうなるかに重みを感じます。
──2013年度からインターネット選挙が解禁になって、選挙が変わったと思いますか?
畠山:ネット選挙が解禁される前年の2012年に、ニコニコ生放送で東京都知事選の全候補者へ出席を呼びかけて討論会をやりました。同日に青年会議所が有名候補による討論会を企画していたので、そこへ出席できなかった候補者たちによる討論会を、前の討論会の終了時間から放送するという構成でした。つまり、二つの討論会を続けてネット視聴すれば、すべての候補者の討論が見られるという試みでした。
──反響はいかがでしたか?
畠山:面白くて満足したという意見が多く寄せられました。新聞テレビの選挙報道で「その他」にまとめられる独立系候補者については情報がないので、奇抜なパフォーマンスのイメージしかなく、変な人たちが集まっておかしなことを言うのではないかと思われていたようでした。ところが、討論会を見てみたら、変な人なのかもしれないけれど、明るくチャーミングで面白い。整然とした討論にはなっていなくてカオスなんだけれど、「世の中のため」という一点においては論理破綻していない。彼らの主張もきちんと伝わって、情報量が多い良い番組になりました。
──独立系候補の訴えを知りたいニーズがあるのに、知る場所がなかったということでしょうか?
畠山:ネット選挙が解禁になったことで、誰もが自分から情報を取りにいけるようになりました。雑誌でも、主要な候補だけでなく、新聞やテレビに取り上げられない候補者たちはどうやって選挙を戦っているのか、そこまでして訴えたいことは何なのか取り上げましょうという企画を誌面にする機会がありました。「人生激場」というタイトルの記事で、担当の編集者から面白いと評価してもらったのも嬉しかったのですが、取材に行った先の選挙管理委員会の人から「選挙課の全員で読みました。素晴らしかったです」と言ってもらえたのには感激しました。先の総選挙でもAbemaTVが無所属候補に注目した番組を作るなど、少しずつですが、変化はあると思います
──開票速報がエンターテインメントとしても楽しめるように工夫されたり、ネットでも選挙の話題はさかんです。ところが、日本の投票率は低いままです。候補者たちに投票率が上がらないことへの危機感はないのでしょうか?
畠山:もちろん、口では誰もが「投票率を上げましょう」と言います。しかし当選している人の場合、本音の部分では独立候補ほど危機感を持っていないのではないでしょうか。