またある時は、一緒にタクシーに乗った途端、「君をうちの会社で採用したいな、優秀だから」と言いだしたIT企業の社長がいた。IT社長の「採用したいな」という口説きは「あるある」なパターンだ。
「プランは2つ、どっちがいい?」と彼は言った。2つ?と聞き返すと彼は「普通に秘書課に配属させて俺のスケジュール管理や出張手配、同行、細かいアシスタント業務などをするのが1つ、あともう1つは」と言ったあと、手を握り、突然耳元で小声でこうささやいた。
「俺に永久就職」
タクシーの中ではオトコの色々な欲望が突如むき出しになるが、私が今までで一番びっくりしたタクシー内での欲望は、素晴らしい(?)対価があった。
その日、プライベートな飲み会で知り合ったのは、数億円の自分の船を所有するといい、都内に何棟もビルを持つと語った、なかなかハンサムなお金持ちであった。
その夜、彼は飲み過ぎたのか、ベロベロに酔っていた。そんな彼を、指示されたマンションのエントランスまでタクシーで送り届けた。それまで彼は紳士であり、「本当にかわいいね、今度2人で会いたいよ」などと言うくらいであったが、エントランスに着くや「降りない」とゴネ始めた。その程度なら、運転手さんにとっても「よく見るやりとり」だろう。すると彼はこう言った。
「君のつばが欲しい」