『安楽死を遂げるまで』著者の宮下洋一氏


養老:というより、耐えきれなくなったんですね。彼は自分が見送った患者さんのことを丁寧に書いて、本にしていたんだけど、患者のことを記録するうちに、だんだんと記憶が重いものになっていったのでしょう。

宮下:一つ思い出した話があります。私は今回の本の取材で、スイスの安楽死団体代表の女性医師にお世話になったんですが、彼女がある女性を旅立たせたあと、ポロッと言ったんですね。「彼女の死を幇助したのは、間違っていたのかもしれない」と。それを聞いたとき、医師が後悔するぐらいなら安楽死を行ってはならないのでは、と思いました。

養老:いや、それは難しいところで、一概に安楽死がダメだと言うつもりはありません。こういうことは全て一つ一つが独立した事象。医師が、自分の手にかけた患者さんの思いを背負いながら生きるのも人生です。

宮下:先生個人は、どんな終末期医療を望みますか。

養老:年が年ですから、余計な医療をするなというのはもう当然。周りにもそう言っています。でも、仮に意識がなくなったとして、僕をどのくらいもたせようとするかは、生きている側の判断です。今、インフォームドコンセントとかつまらないことが言われているけど、日本で、問われるのは周囲がどのくらい納得したかだと思います。

宮下:つまりは、周りの家族が納得できるなら、自分の死に方は問わないと。それは安楽死であろうとも?

養老:はい。安楽死であろうと何であろうと、こちらが考えることではない。生き残る側の人間の問題です。

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