北朝鮮とは仲良くしたいが、今回のオリンピックのように北の言いなりでいいのか? 中国やアメリカ、そしてロシアに挟まれて、それぞれの思惑を押し付けられているだけではないか? また、日本は”帝国主義”によって韓(朝鮮)半島をボロボロにしたのに謝罪もせず、慰安婦のおばあさんだって気の毒すぎるではないか? これらは韓国国民が日常的に語る不満だ。だが、彼女達の場合はさらに、韓国という国やその世論を形づくる人々への恨みという本音が隠れていた。
「慰安婦のおばあさん達は国のために頑張った英雄だし、賠償金ももらえます。おばあさん達は、日帝(大日本帝国)の悪い人たちに言われて仕方なくやった。私たちも、国に仕事がなく、誰も面倒を見てくれないから生活のために仕方なく外国でエスコートをしている。韓国で仕事がないから、やっている仕事です。同じように仕方なくやっている仕事なのに、慰安婦のおばあさん達は英雄で、私たちは売国奴、国の恥だと叩かれる。この違いは誰が説明してくれるのか」(ミナ)
SNSなどで盛んに情報を共有する世代なのだから、日本へ行くだけでは就職難の状況が好転しないことは、韓国の若者にも伝わっていてもおかしくないだろう。ところが、韓国国内では今なお「日本行きセミナー」が人気で、大学生や就職希望の若者達が大挙して押し寄せ、日本での生活に夢を見出しているのだという。日本の経団連も、今春、韓国の大学生を対象として就職セミナーをソウルで開くと報じられている。
しかし現実に日本へ行ってみれば、日本国内の反社会的勢力やその協力者である在日朝鮮・韓国人、ニューカマーの同胞達が裏で糸を引いている“日本行き”が少なくない。それぞれが生きるために必死で「やっている」こととはいえ、より弱い者から搾取することしかしない彼らを放っておいては、韓国人の若者達が新たに被害にあうことを黙認していることに他ならない。
「本当は韓国で暮らしたい。でもなぜそれが出来ないのかわからない。日本でも普通に生活したいが、なぜか出来ない。今の大統領は、お年寄りや声のうるさい人(※筆者注・大声で主張する人)の話しか聞かない。私たちのことは言わないし、見えていないフリだ。だから若い人は、韓国に残りません」(ミナ)
過去の出来事ばかりを見て、現在突きつけられている厳しい現実について、誰も何も言わない、しようともしないという祖国の姿に絶望する韓国の若者達。ミナのような思いを抱えながら、日本で働き続ける韓国人女性は多い。オリンピックで盛り上がる韓国の様子を伝えるニュースを見ながら彼女たちと雑談していると、「北朝鮮の応援団より私たちのほうが貧しいよね」「オリンピック来てもらうためにあんなにお金を出せるなら、私たちに仕事くれればいいのに」など、冗談に聞こえる口調ではあるが、母国が大多数の普通の若者を見捨てていることへの恨みごとを繰り返し聞いた。
筆者は「日本も同じです」と言いかけてやめた。2020年東京五輪のためなら大型予算をすぐにつける一方で、教育や若者の雇用問題にはあまりにも腰が重い。しかし、韓国と比較して語るには、我が国の若者、私たちはまだ大分マシな状況だと思えたからだ。もちろん、マシだからといって優越感に浸っている場合ではないし、ミナ達を見下し溜飲を下げているようでは救いようがない。
彼女たちが置かれている状況は、他人事ではないだろう。日本においても、彼女たちのように虐げられ搾取されているにもかかわらず「見えない」ことになっている存在が、意図的に作り出されているような雰囲気を感じる。派手な政争や稚拙なパフォーマンスばかりが目立つ中、本当に助けを求めている人々、弱い立場にある人々の声が無視されてはいなのか。オリンピックの喧騒が終わった瞬間、意図的に見ようとしてこなかった存在が一気に露見するように思えてならないのだ。