原チャリ(原動機付自転車)に近い性能を持ちながら、法律上は自転車と同じ軽車両に分類され、免許も不要である。道路交通法に詳しいレイ法律事務所の松下真由美弁護士が語る。
「自転車は車に比べて圧倒的多数の人が利用するので、免許制度を導入すると、“誰でも利用できる”という最大の利便性が消えてしまうし、なにより行政の手間も膨大になります。一律に免許制にするのは現実的には難しいんです」
自転車には車の自賠責保険に当たるものはなく、個人が任意で保険に加入することになる。過去には、自転車事故で9000万円を超える高額賠償が地裁で命じられたケースもあり、重大事故を起こした場合、保険に入っていなければ到底払いきれない金額が降りかかる。
「賠償金の額はケースバイケースですが、猛スピードで走っていた場合など、過失が大きく結果が重大な場合は、ときに車と同等かそれ以上の金額が請求されることもあります」(松下弁護士)
昨年12月には川崎市の商店街で、左手にスマホ、右手に飲み物、左耳にイヤホンをした状態で電動自転車を運転していた女子大生が77才の女性と衝突。女性が死亡する事故が発生した。この事故で神奈川県警麻生署は2月15日、加害者の女子大生を「重過失致死罪」の容疑で書類送検した。
「重大な過失により人を死傷させた、という場合に適用されるもので、5年以下の懲役・禁固又は100万円以下の罰金が科せられます。事故から2か月経っての起訴となったのは、加害者に逃走の恐れがなく、逮捕による身柄拘束と取り調べを警察が必要としなかったからでしょう。時間をかけて捜査して、“自転車の運転手に重大な過失があった”という証拠を固めた上で送検をした。被害者が死亡していることもあり、起訴される可能性は高いと思います。おそらく執行猶予付きの禁固刑になるのではないか」(松下弁護士)
民事裁判の損害賠償の相場に比べ、「刑罪規定が軽すぎる」という声も噴出している川崎市の事故。スピードは原チャリ並み、事故時の賠償は車と同等、しかし免許は不要で保険加入の義務なし──。今回の事故は、電動自転車の抱える矛盾を浮き彫りにしたといえる。
※女性セブン2018年3月8日号