終戦直後の1946年1月、和歌山県で一家8人が惨殺される事件が起きた。犯人は被害者一家の主人の弟であるK(当時26歳)。事件後、逃亡を図るも2年後、警察に自首して逮捕される。事件の裁判はわずか40日で結審した。Kには死刑判決が下った。
だが、4年後に思わぬ事態が訪れる。52年のサンフランシスコ平和条約の締結を祝して実施された減刑令によって、Kは無期懲役に減刑となったのだ。
「当時の恩赦では、『強盗殺人』や『放火殺人』のように2つ以上の刑罰が科せられた死刑囚は対象外でしたが、Kは犯行時に兄の自宅から金品を奪っておらず、強盗罪は科刑されていなかった。そこが運命の分かれ目となりました。Kは事件から22年後の1968年に仮釈放となり、48歳で社会復帰しました。その後の消息は不明で、生きていれば今年98歳になります」(斎藤氏)
(文中一部敬称略)
◆文/斎藤充功(ノンフィクション作家)と本誌取材班
●さいとう・みちのり/1941年東京都出身。近現代史や凶悪事件を中心に取材、執筆活動を続ける。『3650 死刑囚小田島鐵男“モンスター”と呼ばれた殺人者との10年間』(ミリオン出版)など著書多数。新著に『恩赦と死刑囚』(洋泉社新書y)がある。
※週刊ポスト2018年3月23・30日号