身内に殺されるかもしれない──そんな恐怖に支配された金正日を見て育った金正恩が、粛清に次ぐ粛清を続けるのは至極当然のことなのだ。
そして李韓永氏のインタビューでもうひとつ大変気になる証言があった。それは、当時、金正日の後継者として最有力視されていた金正男の未来を暗示するものだった。
「正男も現在自分の勢力を形成していて、同じぐらいの年ごろの男たちを傘下に集めているそうです。しかし、彼にも潜在的な敵がいないわけではありません。今、金正日指導者が一緒に暮らしているのは3番目の夫人で、高英姫という女性なんですが、彼女は1950年代に日本から渡った北送朝鮮人(「帰国事業」で北朝鮮に渡った在日朝鮮人)の娘だそうです(中略)。
彼女も自分の勢力を形成しているので、これからは金正男と高英姫夫人の側近勢力の対立が起き、大きな葛藤に発展する可能性は否定できませんね」
この話の通り、高英姫の息子、金正恩が権力闘争に勝利し、その後、正男は抹殺された。
激しい権力闘争を予想した李韓永氏自身は、インタビューの翌年、ソウル近郊で北朝鮮の工作員2名に頭部を銃撃され死亡した。さぞ無念だったろう。
※SAPIO 2018年3・4月号