ライフ

戦国武将を乗せた馬、スピード遅く10分走ればもう限界

有名な騎馬軍団は「ポニー程度」の大きさだった(時事通信フォト)

 武田信玄や上杉謙信、坂本龍馬の名前を高校歴史教科書から削除する案が出され、物議を醸している。暗記中心の歴史学習を改めて思考力を育てるためというが、現代でもファンの多い歴史英雄たちが教科書から消えてしまうのは、何とも味気ない。歴史の思考力を育てるのであれば、単なる数字や言葉の暗記ではなく、物語のように学べるエピソードを授業で教えるべきではないか。その一例として、歴史作家の島崎晋氏が武田騎馬軍団にまつわるエピソードを紹介する。

 * * *
 武田の騎馬軍団といえば、真っ先に脳裏に浮かぶのはNHKの大河ドラマや黒澤映画などの戦闘シーンである。甲冑に身を固めた武者を乗せた軍馬が敵軍目指して大挙疾駆する姿は勇壮そのもの。大地を震わす馬蹄の響きを聞くだけでも心躍る気分になる。実際の戦場での迫力はさらに凄かったに違いないと思いたいが、どうやらそれは現代人の勝手な想像のようである。

 そもそも現在撮影に使用されるのはサラブレッドやアングロアラブなどの洋種馬で、洋種馬の繁殖は明治四〇年(一九〇七)、岩手県の小岩井農場が輸入したことに始まる。それ以前にいたのは道産子(どさんこ)の名で親しまれる北海道和種や木曾馬など七種のみで、サラブレッドと比べればどれも小さく、軍馬として見劣りのすることは否めなかった。

 江戸時代末期に編纂された『古今要覧稿』という書物には、体高五尺(約一五二センチメートル)の馬を大馬、四尺五寸(約一三六センチメートル)の馬を中馬、四尺(約一二一センチメートル)の馬を小馬とするのが世の常とある。また時代はかなりさかのぼるが、源平合戦の時代、名だたる軍馬はどれも四尺六寸から四尺八寸の体高を有しており、一四〇センチメートルを少し超えるくらいが名馬の条件であったことがうかがえる。

 現在撮影に使われるサラブレッドはだいたい一六〇から一六五センチメートルの体高を有しているから、開戦を前に居並ぶ姿からして、ドラマや映画の中と実際の光景に大きな相違のあったことは間違いない。騎馬武者の突撃が与える迫力にしても同じことがいえよう。

 サラブレッドと比べれば、日本の戦国時代の軍馬はまさしくポニーである。小さな体躯に甲冑で身を固めた武者を乗せて走るとなれば、現在の競走馬のような走りは期待できず、全力疾走できる時間と距離も相当短かったと考えるほかなさそうだ。

 在来馬の疾走については、かつてNHKの番組『歴史への招待』で実証実験が行なわれたことがある。体高一三〇センチメートルの馬に四五キログラムの砂袋をくくりつけ、人も騎乗したうえで走らせたところ、分速は空馬(からうま)時のちょうど半分くらいで、走り始めて一〇分後には、もう限界にきていたという。

関連キーワード

関連記事

トピックス

元交際相手の白井秀征容疑者(本人SNS)のストーカーに悩まされていた岡崎彩咲陽さん(親族提供)
《川崎・ストーカー殺人》「悔しくて寝られない夜が何度も…」岡崎彩咲陽さんの兄弟が被告の厳罰求める“追悼ライブ”に500人が集結、兄は「俺の自慢の妹だな!愛してる」と涙
NEWSポストセブン
グラドルから本格派女優を目指す西本ヒカル
【ニコラス・ケイジと共演も】「目標は二階堂ふみ、沢尻エリカ」グラドルから本格派女優を目指す西本ヒカルの「すべてをさらけ出す覚悟」
週刊ポスト
阪神・藤川球児監督と、ヘッドコーチに就任した和田豊・元監督(時事通信フォト)
阪神・藤川球児監督 和田豊・元監督が「18歳年上のヘッドコーチ」就任の思惑と不安 几帳面さ、忠実さに評価の声も「何かあった時に責任を取る身代わりでは」の指摘も
NEWSポストセブン
大谷翔平と真美子さん(時事通信フォト)
《ハワイで白黒ペアルック》「大谷翔平さんですか?」に真美子さんは“余裕の対応”…ファンが投稿した「ファミリーの仲睦まじい姿」
NEWSポストセブン
赤穂市民病院が公式に「医療過誤」だと認めている手術は一件のみ(写真/イメージマート)
「階段に突き落とされた」「試験の邪魔をされた」 漫画『脳外科医 竹田くん』のモデルになった赤穂市民病院医療過誤騒動に関係した執刀医と上司の医師の間で繰り広げられた“泥沼告訴合戦”
NEWSポストセブン
被害を受けたジュフリー氏、エプスタイン元被告(時事通信フォト、司法省(DOJ)より)
《女性の体に「ロリータ」の書き込み…》10代少女ら被害に…アメリカ史上最も“闇深い”人身売買事件、新たな写真が公開「手首に何かを巻きつける」「不気味に笑う男」【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン
2025年はMLBのワールドシリーズで優勝。WBCでも優勝して、真の“世界一”を目指す(写真/AFLO)
《WBCで大谷翔平の二刀流の可能性は?》元祖WBC戦士・宮本慎也氏が展望「球数を制限しつつマウンドに立ってくれる」、連覇の可能性は50%
女性セブン
「名球会ONK座談会」の印象的なやりとりを振り返る
〈2025年追悼・長嶋茂雄さん 〉「ONK(王・長嶋・金田)座談会」を再録 日本中を明るく照らした“ミスターの言葉”、監督就任中も本音を隠さなかった「野球への熱い想い」
週刊ポスト
12月3日期間限定のスケートパークでオープニングセレモニーに登場した本田望結
《むっちりサンタ姿で登場》10キロ減量を報告した本田望結、ピッタリ衣装を着用した後にクリスマスディナーを“絶景レストラン”で堪能
NEWSポストセブン
訃報が報じられた、“ジャンボ尾崎”こと尾崎将司さん(時事通信フォト)
笹生優花、原英莉花らを育てたジャンボ尾崎さんが語っていた“成長の鉄則” 「最終目的が大きいほどいいわけでもない」
NEWSポストセブン
日高氏が「未成年女性アイドルを深夜に自宅呼び出し」していたことがわかった
《本誌スクープで年内活動辞退》「未成年アイドルを深夜自宅呼び出し」SKY-HIは「猛省しております」と回答していた【各テレビ局も検証を求める声】
NEWSポストセブン
訃報が報じられた、“ジャンボ尾崎”こと尾崎将司さん
亡くなったジャンボ尾崎さんが生前語っていた“人生最後に見たい景色” 「オレのことはもういいんだよ…」
NEWSポストセブン