ビジネス

伊賀焼の炊飯土鍋『かまどさん』を電気化 苦難の開発秘話

ボタン1つで土鍋ごはんをおいしく炊ける『かまどさん電気』(長谷園×シロカ)

 伊賀焼の炊飯土鍋『かまどさん』を生んだ老舗窯元・長谷園が家電メーカーのシロカと手を組み、大ヒット商品『かまどさん』の電気化に挑戦した。しかし、誕生するまでにはいくつもの課題があったという、その開発秘話に迫る。

 三重県の老舗窯元・長谷園が手がける伊賀焼の炊飯土鍋『かまどさん』は、発売以降累計80万台を突破するほどだ。昔ながらのかまど炊きを再現し、冷めてもおいしいと多くのユーザーから好評を得ている。しかし、『かまどさん』は直火炊きで時間管理をしなくてはならず、オール電化の家では使用できないデメリットがあった。

 長谷園7代目当主・長谷優磁さんは、IH対応のモデルを販売するものの直火炊きの味を再現できず、途中で販売を中止。同時期、長谷園には大手家電メーカーから炊飯器の共同開発のオファーが殺到していたが、各メーカーの提案はIHを採用するものばかり。長谷園のこだわりとメーカーの技術が折り合わず、共同開発を断念していた。

 そんな中、猛アプローチをかけてきたのが、手軽な価格のキッチン家電を手がけてきたメーカー、シロカだった。シロカの担当者は、門前払いされながらも何度も長谷園へ足を運んだ。そこでシロカが提案したのは、「IHヒーターを使わずに『かまどさん』の良さをそのまま生かした炊飯器を作りたい」というものだった。長谷さんはその思いに心を打たれ、長谷園とシロカの共同開発が始まった。

 まず、熱源はオーブントースターなどで使われるシーズヒーターを採用。IHでは実現できない直火に近い火力を再現することができた。次に、電気で炊くには炊飯器をどういう形状にすればいいか考えた。シロカ開発グループの佐藤一威さんは長谷園へ泊まり込み、試行錯誤を繰り返した。開発から2年の月日を費やし、現在の土鍋を包みこむ形状に定まった。

 しかし、土鍋は金属と違い、熱を蓄える力が強く、冷めにくい。電源を切っても熱がこもってしまい、ごはんが焦げてしまうという問題点もあった。そのため、本体下部にファンを設置。土鍋全体を冷却し、熱がこもらないようにした。ようやく電気でごはんを炊くことはできたが、味は『かまどさん』とはほど遠い。『かまどさん』で炊いたごはんと比較し、試食を何度も行った。味に敏感だという長谷園社長・長谷康弘さんの娘さんからもダメ出しを食らい、発売直前まで味の調整を行ったという。こうして4年の歳月を経て、炊飯試験で使った米は3t以上。試作品は500個にも及んだ。

 土鍋を電気化するという未知への挑戦をゼロからスタートした長谷園とシロカは共に苦難を乗り越えた。「今後も伊賀焼と電気を融合した商品を作っていきたい」と、佐藤さんは話す。『かまどさん電気』には、長谷園とシロカの熱い思いが込められている。極上の土鍋ごはんを味わってみてはいかがだろう。

※女性セブン2018年4月19日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

今季から選手活動を休止することを発表したカーリング女子の本橋麻里(Xより)
《日本が変わってきてますね》ロコ・ソラーレ本橋麻里氏がSNSで参院選投票を促す理由 講演する機会が増えて…支持政党を「推し」と呼ぶ若者にも見解
NEWSポストセブン
白石隆浩死刑囚
《女性を家に連れ込むのが得意》座間9人殺害・白石死刑囚が明かしていた「金を奪って強引な性行為をしてから殺害」のスリル…あまりにも身勝手な主張【死刑執行】
NEWSポストセブン
失言後に記者会見を開いた自民党の鶴保庸介氏(時事通信フォト)
「運のいいことに…」「卒業証書チラ見せ」…失言や騒動で謝罪した政治家たちの実例に学ぶ“やっちゃいけない謝り方”
NEWSポストセブン
球種構成に明らかな変化が(時事通信フォト)
大谷翔平の前半戦の投球「直球が6割超」で見えた“最強の進化”、しかしメジャーでは“フォーシームが決め球”の選手はおらず、組み立てを試行錯誤している段階か
週刊ポスト
参議院選挙に向けてある動きが起こっている(時事通信フォト)
《“参政党ブーム”で割れる歌舞伎町》「俺は彼らに賭けますよ」(ホスト)vs.「トー横の希望と参政党は真逆の存在」(トー横キッズ)取材で見えた若者のリアルな政治意識とは
NEWSポストセブン
ベビーシッターに加えてチャイルドマインダーの資格も取得(横澤夏子公式インスタグラムより)
芸人・横澤夏子の「婚活」で学んだ“ママの人間関係構築術”「スーパー&パークを話のタネに」「LINE IDは減るもんじゃない」
NEWSポストセブン
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
場所前には苦悩も明かしていた新横綱・大の里
新横綱・大の里、場所前に明かしていた苦悩と覚悟 苦手の名古屋場所は「唯一無二の横綱」への起点場所となるか
週刊ポスト
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン