◆“予測不能”ゆえ「瓢箪から駒」?
そういう状況下でトランプ大統領と金正恩委員長が会えば、交渉は必ず決裂する。それどころか、会談場所がどこになるにしろ、トランプ大統領と会うことで金正恩委員長の居場所は特定できるので、トランプ大統領は交渉が決裂したら即、金正恩委員長や北朝鮮の核関連施設などをピンポイントで先制攻撃する可能性もある。いわゆる「鼻血(ブラッディ・ノーズ)作戦」だ。そのリスクに対して北朝鮮側が警戒を強めれば、米朝首脳会談はお流れになる。
それでも今回、北朝鮮が南北首脳会談や米朝首脳会談に向けてアクションを起こしている背景には、中国を含めた経済制裁や、韓国で「死の白鳥」と呼ばれているB-1B爆撃機などの軍事的脅威がある。
また、北朝鮮国内では、金正恩委員長は父・金正日総書記にも増して孤立無援状態にあるとみられている。だから異常なほど疑心暗鬼になり、事実上のナンバー2だった叔父の張成沢・前国防委員会副委員長を重機関銃で処刑したのをはじめ、側近を次々に粛清して常に居場所を変えて警戒しているとされる。
北朝鮮側がスウェーデンやフィンランドと接触したことから、板門店、平壌、ウランバートル、北京などに加えて北欧の両国が米朝首脳会談の開催場所として取り沙汰されたが、北朝鮮の飛行機で北欧まで行くのは難しいし、側近のクーデターを恐れている金正恩委員長が何日間も国を空けることは不可能だろう。となれば、北欧との接触は北朝鮮が主張する「体制保障」のため、金正恩ファミリーの「亡命申請」、またはその可能性を探ったとみるべきではないか。
北朝鮮の「体制」は定義不可能であり、その「保障」とは“金王朝”の存続以外にないからだ。
もし、南北間で平和条約が結ばれて人々の交流・往来が始まったら、北朝鮮国民は韓国との歴然とした経済格差を目の当たりにして、嘘をつき続けてきた体制への批判が噴き出すだろう。そうなれば、金正恩委員長は人民が蜂起して殺される前に国外逃亡するしかない。