富田さんから女性上司へのセクハラ発言はすぐに認められ、様々な上司から呼び出され、取り調べも受けた。もちろん、その際にこれまで富田さんが受けてきたパワハラ、セクハラについても訴えたが、一蹴された。
「やはりセクハラやパワハラは、女性が男性から受けるもの、という認識が強いのでしょう。容姿や家族のことを馬鹿にされた、と報告しても“そんなんでカッとなるな”とか“そんなもん我慢できないでどうする”となだめられました。確かに、友人知人に見た目でバカにされようが笑っていられますが、それがあまりに行き過ぎるととてつもなく不快で、何をやっても自信が持てなくなるほど悲しくなります。こういえば“男のくせに女々しい”と感じませんか?
だから一方的に悪いのは私で、それまでの女上司の言動は全く聞いてもらえないのです。女性からセクハラ、パワハラを受けても男性が黙っているのは、やはりどこかに“女性にやられて恥ずかしい”という気持ちがあるからかもしれない、とも思います。もちろん、そう思うことも広義の意味では女性蔑視、偏見かもしれないのですが……」
周囲の同僚、懇意にしてくれた上司からは「仕方がない」と慰められたが、結局富田さん一人が悪者になる形で騒動は幕引きされた。いたたまれなくなった富田さんは今冬、ひっそりと職を辞した。これだけセクハラやパワハラが問題になっている昨今だが、富田さんは誰からも助けてもらえなかったのだ。しかし、この件をきっかけに富田さんはあることに気が付いた。
「女性からパワハラを受けて恥ずかしい、という思いは消えました。男だろうが女だろうが、セクハラやパワハラはダメだと。小学生でもいじめはダメだとわかっているはずです。こんな簡単なことに、今更気が付きました。イヤだなと思ったら、しっかりと声を上げなければいけませんが、そこまでの勇気を持っている人は少ない。ダメなことをやっている人にダメだといえる社会が来るといいのですが……」
厚生労働省がまとめた「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」報告書(2017年)によると、過去3年間にパワーハラスメントを受けたと感じた者のうち、その後「何もしなかった」と回答したのが女性では28.7%であるのに対し、男性は49.5%にものぼる。男性被害者のうち2人に1人は、なぜ何もしなかったのか。同調査によると「何をしても解決にならないと思ったから」、「職務上不利益が生じると思ったから」という悲観的な理由の比率が高い。どんな性別や立場であっても、被害の訴えをしやすい仕組みづくりの工夫が必要ではないか。