本書もその3つを包括し、従来にない戦前の豊饒さをイメージできるものにしたかった。実は近年、検閲研究は密かな人気分野で、最新の研究成果を反映させつつ、今日的かつ未来的な方向へも、私は検閲の歴史を開放したかったんです」
とかくイデオロギー的に語られがちな検閲の実像を、より未来的な〈思考実験〉に繋げるために本書は書かれた。すると確かにそれは「検閲ならぬ炎上対策」で自主規制を強いられる今と地続きにあった。単に忖度を流行語として消費する態度とも全く違う1984年生まれの作家の肝の据わった面白がりぶりに、頼もしさや新しさを感じずにはいられない。
【プロフィール】つじた・まさのり:1984年大阪府生まれ。慶應義塾大学文学部卒、同大学院文学研究科中退。「デカルト以降、文系学問に理系の方法論を採用して揺るぎない真理を追究したものの、結局挫折したようです。歴史学も、どんなに真理を積み上げても新史料一つで崩れ、バージョンアップを繰り返すしかない無限の運動かなと思う」。2012年より文筆専業。著書に『ふしぎな君が代』『日本の軍歌』『たのしいプロパガンダ』等。165cm、60kg、AB型。
■構成/橋本紀子 ■撮影/国府田利光
※週刊ポスト2018年5月4・11日号