国内

戦後日韓裏面史 在日最強ヤクザ「殺しの柳川」が見た夢

1983年、日本の首相として初めて訪韓した中曽根康弘氏。右は全斗煥大統領(時事通信フォト)

 東に町井久之あれば、西に柳川次郎あり。戦後在日社会の伝説となった二人の男。ともに1923年生まれ。前者は東声会というヤクザを率い、後に事業家に転身した。六本木にナイトクラブをオープンさせ、釜山─下関を繋ぐ釜関フェリーの設立者としても知られる。後者の柳川も武闘派ヤクザ、柳川組の組長として恐れられ、後に堅気となると日本と韓国の橋渡しに生涯を捧げた。

 しかし、町井のように事業欲を見せることはなかっただけに、その功績は今なお計りづらい。複雑な歴史を持つ日韓両国、とくに戦後は意志の疎通すら難しく、オモテ、ウラさまざまな人間が柳川を頼り、柳川もそれに応えた。ジャーナリストの竹中明洋氏が、柳川の足跡を辿った。

 * * *
 そのグランドピアノは舞台袖のカーテンに隠れ、表面には埃が薄く積もっていた。しばらく手入れされた気配はなく、ただ所在なさそうにフロアの一画を占めていた。

 大阪・中崎町の韓国人会館。民団大阪の本部が入るこの建物の6階ホールにピアノが置かれている。おそらくは1980年代半ばからあったはずだが、正確なことは記録に残っていない。だが、「ヤクザからピアノをもらっていいのか、と大騒ぎになった」といった寄贈当時の騒動は、関係者たちに記憶されている。ピアノを贈ったのは柳川次郎。在日韓国人で本名を梁元錫(ヤンウォンソク)という。

 柳川といえば、終戦直後の大阪で暴力によって頭角を現し、山口組きっての武闘派・柳川組の初代組長となった男である。「殺しの柳川」の異名で知られる。一方でヤクザから足を洗った後は、血と暴力の過去を贖罪するかのように日韓交流に生涯を捧げた。

 柳川の下で1978年に右翼団体「亜細亜民族同盟」を立ち上げた佐野一郎は、日本の首相として初となる1983年の中曽根康弘による訪韓について「中曽根と全斗煥を結びつけたのは我々だ」と生前に話していた。暴力の世界に生きたはずの男が海峡を挟んだ二つの国を股にかけた時代。その光と闇が織りなす旋律を本連載では綴りたい。

関連記事

トピックス

大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
大ヒット中の映画『4月になれば彼女は』
『四月になれば彼女は』主演の佐藤健が見せた「座長」としての覚悟 スタッフを感動させた「極寒の海でのサプライズ」
NEWSポストセブン
国が認めた初めての“女ヤクザ”西村まこさん
犬の糞を焼きそばパンに…悪魔の子と呼ばれた少女時代 裏社会史上初の女暴力団員が350万円で売りつけた女性の末路【ヤクザ博士インタビュー】
NEWSポストセブン
華々しい復帰を飾った石原さとみ
【俳優活動再開】石原さとみ 大学生から“肌荒れした母親”まで、映画&連ドラ復帰作で見せた“激しい振り幅”
週刊ポスト
中国「抗日作品」多数出演の井上朋子さん
中国「抗日作品」多数出演の日本人女優・井上朋子さん告白 現地の芸能界は「強烈な縁故社会」女優が事務所社長に露骨な誘いも
NEWSポストセブン
死体損壊容疑で逮捕された平山容疑者(インスタグラムより)
【那須焼損2遺体】「アニキに頼まれただけ」容疑者はサッカー部キャプテンまで務めた「仲間思いで頼まれたらやる男」同級生の意外な共通認識
NEWSポストセブン
学歴詐称疑惑が再燃し、苦境に立つ小池百合子・東京都知事(写真左/時事通信フォト)
小池百合子・東京都知事、学歴詐称問題再燃も馬耳東風 国政復帰を念頭に“小池政治塾”2期生を募集し準備に余念なし
週刊ポスト
(左から)中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏による名物座談会
【江本孟紀×中畑清×達川光男 順位予想やり直し座談会】「サトテル、変わってないぞ!」「筒香は巨人に欲しかった」言いたい放題の120分
週刊ポスト
大谷翔平
大谷翔平、ハワイの25億円別荘購入に心配の声多数 “お金がらみ”で繰り返される「水原容疑者の悪しき影響」
NEWSポストセブン
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
女性セブン
ホワイトのロングドレスで初めて明治神宮を参拝された(4月、東京・渋谷区。写真/JMPA)
宮内庁インスタグラムがもたらす愛子さまと悠仁さまの“分断” 「いいね」の数が人気投票化、女性天皇を巡る議論に影響も
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン