辞任した内田正人・前監督(62才)や井上奨・前コーチ(29才)は世間から総バッシングを浴びている。しかし、彼らは「反則しろ」とは指示しておらず、精神的に追い込まれたにしろ、宮川選手の“指示の受け取り方”が異常だったのではないかという木村氏の指摘だ。井上コーチの元チームメートが言う。
「井上がかつて出演したとされる『ゲイビデオ』騒動まで蒸し返されていることが、本当に不憫で…。2013年8月に週刊誌で彼がゲイビデオに出演したことが報じられたんですが、そのビデオは彼がやむなく背負った借金のために、無理やりに出演させられたそうです。そのために就職もできず、井上は整形手術するまで追い込まれたらしい。内田監督は“ビデオに出たのは井上じゃない”と周囲を説得して、なんとか日大職員に就職させた。井上は厳しいところはあったけれど、本当は後輩思いのいいやつのはずです」
反則した学生はいい子で、指導者は“悪者”──しっかりした捜査や検証のないままそんな世論ができあがったのには、「日本人に特有の“スポーツに打ち込む学生は純粋”という固定観念がある」と指摘するのは評論家の呉智英氏だ。
「高校野球や箱根駅伝など、日本人にとって学生スポーツは汗と涙の青春の象徴です。ひたむきなプレーが感動を誘うためには、選手たちは“鬼コーチのしごきに耐える純真無垢な存在”でなければいけない。今回の騒動も、そうした構図で語られていますが、宮川氏は成人した20才の立派な大人です。選挙権が18才以上になって、成人年齢を18才にしようという議論が起きている昨今に、彼がスポーツに打ち込んでいたからって、“子供扱い”するのは間違っています。
実際、宮川氏がやったことは、“自分が試合に出るために、反則して相手選手をけがさせる”という私利私欲です。監督やコーチの指導法に問題があったにせよ、個人としての責任も大きい。スポーツで最低限のルールも守れない、いい大人を礼賛する日本の風潮には違和感を持ちます」
◆司会者を苛立たせたメディアの責任
そもそも学生アマチュアの親善試合で起きた1つのラフプレーが、朝から晩まで報じられることは前代未聞だ。相手が命にかかわる重傷を負ったとか、日本チャンピオンを決める大一番の試合だったとか、深刻なシチュエーションでもなかったのに、刑事告訴に至るほどの大騒動になったのには、こんな理由がある。立教大学でメディア学を教える砂川浩慶氏が語る。