国内

手塚治虫他“男性”が描いていた少女漫画を女性が描くまで

かつては男性漫画家が少女漫画を描いていた(撮影/横田紋子)

「おかーちゃん。漫画は競争の世界やない。夢の世界や。私は“夢の種”を手に入れたんや」

 いつものように台所で朝食の支度をしていた都内在住の主婦・竹村貴子(53才)はテレビから流れてきたひとりの少女のセリフにドキッとして、思わず手を止めた。

 これは朝ドラ『半分、青い。』で永野茅郁演じるヒロインの楡野鈴愛が発した言葉だ。岐阜県に生まれ育った鈴愛は、高校時代に幼なじみから借りた少女漫画『いつもポケットにショパン』に魅了され、少女漫画家になるために上京を決意する。「競争の世界であんたがやっていけるわけがない」と反対する母に対して、鈴愛が純粋な少女漫画愛を訴えたのが先のセリフだ。この言葉で、鈴愛の真剣な思いを知った母は娘を東京へと送り出すのだった。

 テレビから流れてきた鈴愛の言葉を聞いた貴子は、甘酸っぱい懐かしさが胸にこみ上げてきて、夢見心地で人生を振り返った。彼女もまた、鈴愛のように少女漫画が与えてくれた「夢の種」を糧に生きてきたのだった──。

 貴子の宝物は、日に焼けて黄色くなった『アタックNo.1』の単行本。バレーボールに青春をかける女子中高生の姿を描いた、スポ根少女漫画の金字塔だ。

 1977年、12才の貴子は父の転勤に伴い、生まれ育った東京から福岡の小学校に転校した。人見知りが激しく、新しい学校でうまくやっていけるか不安になる貴子を励ましたのが、隣の家のお姉さんからもらった『アタックNo.1』だった。

 主人公の鮎原こずえもまた、物語の冒頭で東京から静岡の中学に転校する。最初は不良グループに目をつけられ苦労するが、こずえのバレーにかける熱い気持ちが伝わると、次々に仲間が増えてゆく。

 こずえに背中を押された貴子は転校先の学校でバレーボールクラブに入部。ほかの部員もみなこずえに憧れて入部してきたため、すぐに心が通じ合い、漫画に登場する「回転レシーブ」の練習に明け暮れる日々が続いた。バレーを通じて友達のできた貴子は、チームのコーチをしていた男子大学生が『アタックNo.1』でこずえを厳しくも温かく指導する「本郷コーチ」にそっくりだったことから、彼に淡い恋心を抱く。

 少女漫画に導かれて、内気な貴子は見知らぬ土地で多くの友達やかけがえのない初恋の記憶を手に入れたのだ。

 1968年から連載が始まった『アタックNo.1』を描いたのは浦野千賀子さんだ。今でこそ少女漫画は浦野さんのように女性作家が描くものがほとんどだが、当時は男性による作品が主流だった。

 実際、「元祖少女漫画」といわれる手塚治虫の『リボンの騎士』をはじめとして、赤塚不二夫の『ひみつのアッコちゃん』や横山光輝の『魔法使いサリー』など、大物男性漫画家が少女向けに作品を発表していた。

関連記事

トピックス

球種構成に明らかな変化が(時事通信フォト)
大谷翔平の前半戦の投球「直球が6割超」で見えた“最強の進化”、しかしメジャーでは“フォーシームが決め球”の選手はおらず、組み立てを試行錯誤している段階か
週刊ポスト
参議院選挙に向けてある動きが起こっている(時事通信フォト)
《“参政党ブーム”で割れる歌舞伎町》「俺は彼らに賭けますよ」(ホスト)vs.「トー横の希望と参政党は真逆の存在」(トー横キッズ)取材で見えた若者のリアルな政治意識とは
NEWSポストセブン
ベビーシッターに加えてチャイルドマインダーの資格も取得(横澤夏子公式インスタグラムより)
芸人・横澤夏子の「婚活」で学んだ“ママの人間関係構築術”「スーパー&パークを話のタネに」「LINE IDは減るもんじゃない」
NEWSポストセブン
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
場所前には苦悩も明かしていた新横綱・大の里
新横綱・大の里、場所前に明かしていた苦悩と覚悟 苦手の名古屋場所は「唯一無二の横綱」への起点場所となるか
週刊ポスト
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン
レッドカーペットを彩った真美子さんのピアス(時事通信)
《価格は6万9300円》真美子さんがレッドカーペットで披露した“個性的なピアス”はLAデザイナーのハンドメイド品! セレクトショップ店員が驚きの声「どこで見つけてくれたのか…」【大谷翔平と手繋ぎ登壇】
NEWSポストセブン
竹内朋香さん(左)と山下市郎容疑者(左写真は飲食店紹介サイトより。現在は削除済み)
《浜松ガールズバー殺人》被害者・竹内朋香さん(27)の夫の慟哭「妻はとばっちりを受けただけ」「常連の客に自分の家族が殺されるなんて思うかよ」
週刊ポスト
真美子さん着用のピアスを製作したジュエリー工房の経営者が語った「驚きと喜び」
《真美子さん着用で話題》“個性的なピアス”を手がけたLAデザイナーの共同経営者が語った“驚きと興奮”「子どもの頃からドジャースファンで…」【大谷翔平と手繋ぎでレッドカーペット】
NEWSポストセブン