自分の思いを内に留めて煩悶する従来のスタイル「ではない」あたりに、ヒントがある。中谷さんのナレーションは常に迷いやとまどい、辛辣な怒り、不満といった感情を率直に吐露していく。心の内に潜ませ我慢するのではなくどんどん出していく。さらに真弓は、感情を行動へとつなげます。例えば「専業主婦から仕事に復帰」「夫の相手の女性に会いにいく」「きっちりと話をつける」「離婚届を書く」と、どんどん具体的に形にしていくのです。
思ったことをすぐに口に出してしまう、おっちょこちょいな不器用さが真弓にはありますが、むしろそうした「我慢しない」姿勢が視聴者の共感を生み、反響を集める原動力となったとは言えないでしょうか?
ドラマの中にはこんな象徴的な言葉もありました。男性は「“家”に欲しいものがない場合、外にそれを求めにいく」というセリフ。たしかにそうだった、「これまでは」。しかし、今や外に向くのは女性も同じ。
パートを含めて外で働くことが当り前になり、SNSが内に留めてきた感情や意見の吐露の場となり、それが同じ境遇の人との共感を育む。「保育園落ちた日本死ね」からワンオペ問題、セクハラ告発、#metooへと至る現象を次々に生み出しています。
ドラマは社会を映す鏡。社会の変化とリンクしながら形作られていくもの。『あなたには帰る家がある』が従来の不倫ドラマとは一味違う、外向きテイストの作品になったのも考えれてみれば自然なことかもしれません。