国内

田原総一朗 生きがいなき時代、独善的凶悪犯は今後も現れる

田原氏が現代日本が抱える大きな問題を指摘(写真/時事通信社)

 入学した中学校でいじめに合い、不登校に。14才で自立支援施設に入り、そこで生活するようになる。定時制の高校を経て機械修理の会社に就職するも、人間関係がうまくゆかず1年も経たずに退職。その後は親類宅で祖母や伯父らと暮らし始めるが「こんな所にいても仕方ない」と家出を繰り返す。人と接することが苦手で家族とも断絶状態になり、「おれには生きている価値がない」とたびたび口にしていた──。

 6月に起きた新幹線殺傷事件の小島一朗容疑者(22才)の半生を振り返ると、浮かび上がって来るのは自殺願望と生きる目的の喪失だ。精神科医の香山リカさんが言う。

「無差別殺人は自殺願望の裏返しとも考えられます。見ず知らずの人を見境なく傷つける彼らは、社会に対して見捨てられたという反発を持つ一方で、誰にも気がつかれず、ひとりで死ぬのは嫌だという孤独感が強い。だから無理心中のように他人を巻き込み、自殺しようとするのです」

 その根源である“生きる目的の喪失”は、現代日本が抱える大きな問題である。ジャーナリストの田原総一朗さんが指摘する。

「誰かの役に立っているという実感が得づらい現代は、人間にとって生きる目的が見つかりづらい時代です。家庭内でも職場でも仲間内でも必要とされず、孤独感をつのらせた結果、自ら死を選ぶ若者が多い。今回の小島容疑者も、そんな若者たちの1人だといえる」

 戦後から70年以上を経て日本人の気質は大きく変化した。11才で終戦を迎えた田原さんは戦後の貧しい時代をがむしゃらに生き抜いた。

「当時は、生活する手段を見つけることそのものが生きがいにつながっていた。自分も高校時代は家庭教師をして学費を稼ぎ、夜間大学に通いながら実家に仕送りをしていました。確かに大変だったけれど、周囲も似たような環境だったし、嫌だと感じたり疑問に思ったりしたことはありませんでした。むしろ、誰かの役に立っているという実感を強く得ることができていた」(田原さん)

 戦後の焼け野原から高度成長時代を経て、日本はやがてバブルの絶頂に到達する。東西冷戦の緊張のなかで経済が右肩上がりに成長する時代、日本人は“欧米に追いつけ追い越せ”と額に汗して働いた。貧しい敗戦国の国民にとって、豊かな生活を送ることが最大の目標だった。

「努力すればしただけ、昨日より今日、今日より明日が豊かになった時代でした。しかしその上り調子も1990年代のバブル崩壊で頭打ちになってしまった。結果、多くの日本人は目標を見失いました。以降、今に至るまで『失われた30年』といわれる空虚な時代が続いています」(田原さん)

“失われた30年”は日本人の目標であった“豊かに生きること”を奪い、その結果、日本全体には「何のために生きているのかわからない」という風潮が蔓延している。

関連記事

トピックス

「第72回日本伝統工芸展京都展」を視察された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年10月10日、撮影/JMPA)
《京都ではんなりファッション》佳子さま、シンプルなアイボリーのセットアップに華やかさをプラス 和柄のスカーフは室町時代から続く京都の老舗ブランド
NEWSポストセブン
史上初の女性総理大臣に就任する高市早苗氏(撮影/JMPA)
高市総裁取材前「支持率下げてやる」発言騒動 報道現場からは「背筋がゾッとした」「ネット配信中だと周囲に配慮できなかったのか」日テレ対応への不満も
NEWSポストセブン
沖縄県那覇市の「未成年バー」で
《震える手に泳ぐ視線…未成年衝撃画像》ゾンビタバコ、大麻、コカインが蔓延する「未成年バー」の実態とは 少年は「あれはヤバい。吸ったら終わり」と証言
NEWSポストセブン
米ルイジアナ州で12歳の少年がワニに襲われ死亡した事件が起きた(Facebook /ワニの写真はサンプルです)
《米・12歳少年がワニに襲われ死亡》発見時に「ワニが少年を隠そうとしていた」…背景には4児ママによる“悪辣な虐待”「生後3か月に暴行して脳に損傷」「新生児からコカイン反応」
NEWSポストセブン
部下と“ラブホ密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(左・時事通信フォト)
《黒縁メガネで笑顔を浮かべ…“ラブホ通い詰め動画”が存在》前橋市長の「釈明会見」に止まぬ困惑と批判の声、市関係者は「動画を見た人は彼女の説明に違和感を持っている」
NEWSポストセブン
バイプレーヤーとして存在感を増している俳優・黒田大輔さん
《⼥⼦レスラー役の⼥優さんを泣かせてしまった…》バイプレーヤー・黒田大輔に出演依頼が絶えない理由、明かした俳優人生で「一番悩んだ役」
NEWSポストセブン
国民スポーツ大会の総合閉会式に出席された佳子さま(10月8日撮影、共同通信社)
《“クッキリ服”に心配の声》佳子さまの“際立ちファッション”をモード誌スタイリストが解説「由緒あるブランドをフレッシュに着こなして」
NEWSポストセブン
“1日で100人と関係を持つ”動画で物議を醸したイギリス出身の女性インフルエンサー、リリー・フィリップス(インスタグラムより)
《“1日で100人と関係を持つ”で物議》イギリス・金髪ロングの美人インフルエンサー(24)を襲った危険なトラブル 父親は「育て方を間違えたんじゃ…」と後悔
NEWSポストセブン
「父と母はとても仲が良かったんです」と話す祐子さん。写真は元気な頃の両親
《母親がマルチ商法に3000万》娘が借金525万円を立て替えても解けなかった“洗脳”の恐ろしさ、母は「アンタはバカだ、早死にするよ」と言い放った
NEWSポストセブン
来日中国人のなかには「違法買春」に興じる動きも(イメージ)
《中国人観光客による“違法買春”の実態》民泊で派遣型サービスを受ける事例多数 中国人専用店在籍女性は「チップの気前が良い。これからも続けたい」
週刊ポスト
自宅への家宅捜索が報じられた米倉(時事通信)
米倉涼子“ガサ入れ報道”の背景に「麻薬取締部の長く続く捜査」 社会部記者は「米倉さんはマトリからの調べに誠実に対応している」
米・フロリダ州で元看護師の女による血の繋がっていない息子に対する性的虐待事件が起きた(Facebookより)
「15歳の連れ子」を誘惑して性交した米国の元看護師の女の犯行 「ホラー映画を見ながら大麻成分を吸引して…」夫が帰宅時に見た最悪の光景とは《フルメイク&黒タートルで出廷》
NEWSポストセブン