◆サッカーの西野監督似、イケメンではないけれど清潔感があった
生活水準を下げたくない、という言葉に象徴されるように、綾乃さんは、自分の理想とするライフスタイルの追求に貪欲だった。たとえばそれは、神楽坂に住むこと、20畳以上のリビングのある部屋に住むこと、そして、できるだけ美味しいものを食べ、飲むこと──。これらの追求の過程で出会ったのが、真一氏だった。
「結婚前のことです。いつか神楽坂に住みたいと思っていたので、あるとき、会社帰りに、一人で散策していたんですね。ちょっと疲れたから、ふらりと入ったバーで、隣に座っていたのが真一さんでした。第一印象は、お金持ちそうなおじさん(笑)。シンプルな白シャツを着ていて、イケメンではないけれど清潔感があって、雰囲気は、サッカーの西野(朗)監督に似ていたかなあ。私がもうすぐ神楽坂に引っ越してくるという話をしたら、近くに住んでるからと、いろいろ教えてくれたんです」
話は盛り上がり、帰り際に、「引っ越しが終わったら、僕がいま一番気に入っている店で、引っ越し祝いをしよう。旦那くんと一緒においで」と言われた。
「けっこうお酒を飲んでいたので、本気で受け止めてなかったのですが、引っ越して1ヶ月後くらいに、メールがきたんです。名刺交換をしていたんですよ。彼は早期退職し、個人でコンサル業をしていると言っていたので、何か仕事で役立つことがあるかもしれないと思って」
たった一度だけ飲んだ相手に引越し祝いをしてもらうのはどうなのだろう、と、綾乃さんはしばし逡巡した。当時の夫に相談すると「気持ち悪い」と一蹴された。そうだよな、と、納得しつつも、綾乃さんは後ろ髪を引かれた。
「そのお店、自分では絶対行けそうにない高級店だったから。旦那とおいで、と誘っているわけだから、下心はなさそうだし、イケメンではないけれど、話は面白そうだし……、食い意地と好奇心が勝ってしまった。で、旦那は仕事で行けないから、女友達と行っていいですかと交渉したんです。OKでした」