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2018.07.25 16:00  女性セブン

春風亭一之輔が紹介 ほどよい距離感の落語コミックエッセイ

ゆるーい落語案内コミックエッセイ『お多福こいこい』

【書評】『お多福来い来い てんてんの落語案内』/細川貂々/小学館/1296円

【評者】春風亭一之輔(落語家)

 ここ数年、落語ブームのせいか初心者向けの落語入門書が年に何冊も出版されている。

 が、だいたい力が入りまくっている。「落語って凄いんだよっ! 今、聴かなきゃダメ!」とやたらに押し付けがましくて、初心者には情報量が多過ぎ。入門書だけでお腹いっぱいになってしまう。気軽に手に取った初心者はドン引きだろう。

 落語家が言うのもなんだけど、落語ってそんなに「凄く」ない。いや、凄い落語家の落語は凄い。そうでもない落語家の落語はそれなりだ。誰でも聴けばすぐに大笑いで楽しめる…というものではない。かといって理屈や情報で固めて頭でっかちでのぞまなくても、日本語が分かればなんとなく分かる、それが落語。

 落語とは『足湯』のようなもの。温泉ほどかまえることなく、お金もさほどかからない。なんとなく、つかってみようかな…と気軽に足を突っ込んで、出たくなったらすぐ上がっちゃえばいい。心と身体がホカホカしたようなしないような…。効いてるような効いてないような。効いてなくても、文句を言うほどでない。でもハマると癖になる。と言っても「あー、いい塩梅…」くらいの効能。それが、落語。

 本書は落語との、ほどよい距離感で書かれたゆるーい落語案内。著者は自称『ネガティブ思考クイーン』。冒頭、ふとしたきっかけで落語を聴きに行く。演目は「弱法師(よろぼし)」。とても初心者向けの落語ではない。著者は言う。「わからない」。わかったような気持ちにならないのがいい。実に素直。著者はそこで思う。「落語って私が思ってたのとちがうのかも…」と。でもこの落語をきっかけに「落語と接していってみようかな」とも思いはじめる。ホッとした。でも出会いってこんなものだ。

 ページをめくると、著者自身が聴いた、思い入れのある演目を紹介するかたちで話は進む。うんちくや小難しい情報は入れず、自身の率直な感想を交えて、同じ立場の初心者にはとても分かりやすいだろう。

 落語好きのツレ(夫)に「面白いから聴いてみろ」と『替わり目』という落語を聴かされ、著者は「こんなのダメ!」と怒り心頭。『替わり目』は名人・古今亭志ん生の十八番だ。「亭主関白の酔っ払い」噺を、「時代に合わない、全然笑えないっ!」と素直に腹を立てる著者。凝り固まった落語好きには言えないセリフだ。落語家からすると耳が痛い。そうだ、こういう新鮮な意見が欲しいのだ。落語はドンドン変わっていってよいのだから。勉強になります!

 落語には聖人君子は出てこない。どうしようもないダメ人間ばかり。そいつらが頭ごなしに否定されるわけでなく、「まぁ、その辺でてきとうにやってなよ」と和気あいあいそれなりに生きている。日々に疲れたらこんな世界を覗いてみてはいかがでしょう。まずこの本を手に取って、『足湯感覚』でちゃぽん。もし肌にあわねば無理せずに。それが、落語ですから。

※女性セブン2018年8月2日号

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