これまで、横綱には引き際の美学があった。前述したように、貴乃花は7場所連続全休からの復帰場所で12勝をあげた。1年以上のブランクにもかかわらず準優勝したことに世間からは拍手が送られたが、貴乃花自身はむしろ「衰え」を痛感したと周囲に漏らしていた。翌場所の全休を挟んで2003年1月場所の8日目に引退を決意した。
優勝31回を誇るウルフこと元横綱・千代の富士は、左腕の怪我による休場明けの1991年5月場所の初日に18歳の貴花田(現・貴乃花親方)に寄り切りで敗れた。3日目に新小結の貴闘力に敗れたところで引退を表明したが、その夜の引退会見での「体力の限界、気力も無くなり……」と腹の底から絞り出した口上は、「相撲の取り口同様、素早く鮮やかな引き際だ」と称賛された。
そういった先達との違いはあまりに大きい。
◆親方たちの「ご都合主義」
親方衆の間でも、角界の将来を憂う様子は見えない。