そうした一貫した面白い小説主義、そして一見非現実的でいてリアルな社会描写は、音楽を愛し、小説を愛する著者自身の、まだまだこの世界を肯定したいという意思の表れだろうか。「自分はまじめなことをまじめに書けないみたいです。まじめに書いているとなんか悲しくなってくるので」と笑う心優しく、底の知れない大型新人から、今後も目が離せそうにない。
【プロフィール】いちじょう・じろう/1974年福島県生まれ。山形大学人文学部卒。2015年『レプリカたちの夜』で第2回新潮ミステリー大賞を受賞。「とにかくこの作品を世に出すべき」(伊坂幸太郎氏)、「笑いのセンスも洗練されている」(貴志祐介氏)、「いい小説だけが持つ、確かな肌触りがあった」(道尾秀介氏)などと絶賛される。本作は第2作。来月に前作も文庫化予定。177cm、52kg、O型。
■構成/橋本紀子 ■撮影/国府田利光
※週刊ポスト2018年9月17日号