国際情報

交差点で自転車に接触したクルマの運転手が刺殺されるまで

不注意から大惨事に(写真:アフロ)

 クルマをめぐるトラブルが多くなっているのは中国も同じだ。現地の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏がレポートする。

 * * *
 台風の上陸で洪水被害に揺れる中国で、人々の目がある一つの殺人事件に注がれている。新聞の見出しで「反殺」と表現された事件は、8月27日に江蘇省昆山市の路上で起きた殺人事件で、きっかけは交通トラブルであった。被害者・劉海龍の名前から「龍哥事件」とも呼ばれている。

 夜9時半、36歳の劉の運転するBMWは41歳でホテルの従業員の于海明の乗る電動自転車と交差点で接触した。当時、劉は酒を飲んでいて強引に交差点に進入したという証言もあった。

 事故後、当事者同士の言い争いが発生したのだが、まずBMWから降りてきたのは、助手席に乗っていた劉の仲間だった。

 劉は、後にネットでも話題になったように元「黒社会」のメンバーであり、全身にびっしりと刺青を入れていた。その仲間であれば、当然のこと手もはやい。于へは早い段階で暴行が始まったとされている。だが、このときは同乗していた女性たちが車から降り、止めに入ったことで収まり、ほどなく同乗者は車に戻ったという。

 だが、なぜかこの瞬間、劉が運転席から飛び出し、于を激しく怒鳴り上げると、暴行を加え始めた。そして怒りが収まらない劉は、車に戻ると、積んであった刃渡り4.3㎝のナイフを取り出し、于の頭を目がけて何度も振り下ろしたのである。

 恐怖を感じた于も反撃に出て、劉と激しくもみあった末にナイフを取り上げ、逆に何度も劉を刺したという。およそ7秒間の襲撃だったが、その間に劉には致命傷となった一撃を含め、計5ヵ所に深い傷が残った。慌てた劉はBMWまで逃げたが、そこでも于は執拗に襲い、とどめを刺した。

 これが「反撃殺人」の顛末だが、事件が報じられるとネットを中心に大きな議論が巻き起こった。サイトによっては、于の正当防衛は成立するのか否かについて意見を求めるものまであらわれるほど、議論が白熱した。8月28日から、連続で「龍哥事件」の閲覧数がランキングの上位を維持したのである。

 結局、昆山市公安局が9月1日付で声明を発表し、于の正当防衛が認められるとの見解を示すまで盛り上がりは続いたのであるが、このニュースが注目された背景には、実際に交通トラブルで怖い思いをした経験を持つ者が多いことが背景にあるのだろう。その意味では日本の「あおり運転」と似ているのかもしれない。

関連キーワード

トピックス

CM露出ランキングで初の1位に輝いた今田美桜(時事通信フォト)
《企業の資料を読み込んで現場に…》今田美桜が綾瀬はるかを抑えて2025年「CM露出タレントランキング」1位に輝いた理由
NEWSポストセブン
亡くなったテスタドさん。現場には花が手向けられていた(本人SNSより)
《足立区11人死傷》「2~3年前にSUVでブロック塀に衝突」証言も…容疑者はなぜ免許を持っていた? 弁護士が解説する「『運転できる能力』と『刑事責任能力』は別物」
NEWSポストセブン
アスレジャー姿で飛行機に乗る際に咎められたそう(サラ・ブレイク・チークさんのXより)
《大きな胸でアスレジャーは禁止なの?》モデルも苦言…飛行機内での“不適切な服装”めぐり物議、米・運輸長官がドレスコードに注意喚起「パジャマの着用はやめないか」
NEWSポストセブン
(左から)小林夢果、川崎春花、阿部未悠(時事通信フォト)
《トリプルボギー不倫の余波》女子ゴルフ「シード権」の顔ぶれが激変も川崎春花がシード落ち…ベテランプロは「この1年は禊ということになるのでしょう」
NEWSポストセブン
吉野家が異物混入を認め謝罪した(時事通信、右は吉野家提供)
《吉野家で異物混入》黄ばんだ“謎の白い物体”が湯呑みに付着、店員からは「湯呑みを取り上げられて…」運営元は事実を認めて「現物残っておらず原因特定に至らない」「衛生管理の徹底を実施する」と回答
NEWSポストセブン
小磯の鼻を散策された上皇ご夫妻(2025年10月。読者提供)
美智子さまの大腿骨手術を担当した医師が収賄容疑で逮捕 家のローンは返済中、子供たちは私大医学部へ進学、それでもお金に困っている様子はなく…名医の隠された素顔
女性セブン
英放送局・BBCのスポーツキャスターであるエマ・ルイーズ・ジョーンズ(Instagramより)
《英・BBCキャスターの“穴のあいた恥ずかしい服”投稿》それでも「セクハラに毅然とした態度」で確固たる地位築く
NEWSポストセブン
北朝鮮の金正恩総書記(右)の後継候補とされる娘のジュエ氏(写真/朝鮮通信=時事)
北朝鮮・金正恩氏の後継候補である娘・ジュエ氏、漢字表記「主愛」が改名されている可能性を専門家が指摘 “革命の血統”の後継者として与えられる可能性が高い文字とは
週刊ポスト
箱わなによるクマ捕獲をためらうエリアも(時事通信フォト)
「箱わなで無差別に獲るなんて、クマの命を尊重しないやり方」北海道・知床で唱えられる“クマ保護”の主張 町によって価値観の違いも【揺れる現場ルポ】
週刊ポスト
火災発生後、室内から見たリアルな状況(FBより)
《やっと授かった乳児も犠牲に…》「“家”という名の煉獄に閉じ込められた」九死に一生を得た住民が回想する、絶望の光景【香港マンション火災】
NEWSポストセブン
11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(右/読者提供)
【足立区11人死傷】「ドーンという音で3メートル吹き飛んだ」“ブレーキ痕なき事故”の生々しい目撃談、28歳被害女性は「とても、とても親切な人だった」と同居人語る
NEWSポストセブン
「アスレジャー」の服装でディズニーワールドを訪れた女性が物議に(時事通信フォト、TikTokより)
《米・ディズニーではトラブルに》公共の場で“タイトなレギンス”を普段使いする女性に賛否…“なぜ局部の形が丸見えな服を着るのか” 米セレブを中心にトレンド化する「アスレジャー」とは
NEWSポストセブン