「避難路以外のところをそのままにするつもりはありませんが、物理的に全国的な全数調査は不可能です。そこで、災害時に崩れると車両や人が通れず、二次被害が起こる可能性があるブロック塀を優先します」

 担当者は文科省を引き合いに出し、「学校は数が限られているが、住宅の塀の調査をやりきるマンパワーはさすがに難しい」とも語った。確かに仕方がないことかもしれないが、一方で大地震はいつ来るかもしれず、なんとも頼りない回答と言わざるを得ない。

 冒頭の由美さんと同じく、ブロック塀の持ち主に直談判をした小林良子さん(仮名・45才)は、こう憤る。

「傾いてグラついている塀の家を訪ねたら、80代くらいのおじいさんが出てきました。塀をどうにかしてほしいとお願いしたら、年金暮らしで金がない。だいたい、老い先短い自分には関係ないと突き放されました」

◆“ブロック塀”ではなく“殺人塀”と呼ぶべきだ

 都市災害に詳しい関西大学社会安全学部の河田惠昭特別任命教授は、このままでは民家の危険なブロック塀はなくならないだろうと指摘する。

「学校施設の危険なブロック塀は全国的に撤去され、なくなりますが、個人宅では自分で費用を支払わなければ工事ができないため、“きっとうちの塀は大丈夫”“お金がないから仕方がない”と、改修を先送りしてしまうのです。他人事だと思っていて、自分の家の塀で人が死ぬと思っていないんですよ」

 しかし、事が起きてからでは遅いのだ。河田教授は深刻な表情で続ける。

「だから、一人ひとりが危機感を持たなければいけない。ぼくは“ブロック塀”ではなく“殺人塀”と呼んでいます。ブロック塀が人を死なせる凶器になるということを認識しないから、大地震のたびに被害者が出るんです。高槻市立寿栄小学校の女の子は、天災ではなく人災で亡くなったようなもの。このまま危険なブロック塀を野放しにしていたら、首都直下地震や南海トラフ地震で、被害は甚大になるでしょう」

 実際に東京都では、首都直下地震による東京の被害想定を公表している。それによると、ブロック塀による死者は103人、負傷者は3543人にも及ぶ。

※女性セブン2018年9月27日号

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