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元侍医が述懐、昭和天皇は重篤な状況の月に目を向けられた

昭和天皇は病床でも国民のことを第一に考えられていた(時事通信フォト)

 昭和天皇は「無私」を貫き、常に「公」の精神を持たれていた。最晩年にお側に仕えた元侍医、伊東貞三氏が語る。

 * * *
 私が侍医として陛下にお仕えしたのは、昭和58年から昭和64年1月7日までの約5年間です。

 当初、陛下の独り言の多さが気になりました。高齢者特有の言動なのでは、と感じたのです。しかし日々接するなかで、私の思い違いだったと気づかされました。陛下はお考えを一度、口に出されて確認し、納得されてからお話しになっていたのです。

 ご自身の発する一言がどれほど大きな意味を持つか、陛下は自覚されていました。しかし誰にもご相談できません。孤独のなか、国民の思いやご自身のお立場、政治、あらゆることに気を配り、慎重に言葉を選んでお話しになられていたのです。

 昭和62年4月、誕生日にあたっての会見で陛下は沖縄訪問の希望をお話しになりました(*)。

【*記者会見で昭和天皇は「念願の沖縄訪問が実現することになりましたならば、戦没者の霊を慰め、長年県民が味わってきた苦労をねぎらいたいと思います」と述べられた。】

 しかし、かねてからの願いだった沖縄の戦没者慰霊の旅を前に状況が大きく変わります。4月29日の昼餐会で陛下は嘔吐なさいました。さらに夏には那須御用邸で召し上がった食事をお戻しになられ、下痢などの症状にも悩まされました。検査の結果、ガンが明らかになりました。その影響で、信じられないほど十二指腸が細くなっていたのです。病名を伏せて手術を進言すると陛下は一言「医者にまかせる」とおっしゃいました。

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