そういう意味では、残念ながら鳥貴族の均一価格は存在価値が薄れている気がする。低価格であり安全安心という価値が、消費者の幅広いニーズと乖離してきたことが客数減少の原因と感じている。そこに人件費や原材料の価格高騰、そして酒税法改正による値上げが拍車をかけている。
しかも、低価格を追い風として多くの企業が鶏肉をキーワードとして専門居酒屋に参入するなど“焼き鳥戦争”が激しさを増している。例えば、総合居酒屋のワタミは業態転換を図り「三代目鳥メロ」に多くの店舗を改装し、業績回復に大きく役立てた。こうなると、鳥貴族も決して安閑とはしていられないはずだ。
大倉社長は値上げした理由について、経済誌のインタビューでこう話している。
〈時代に合った「適正価格」にするためです。では、適正価格とは何か。私はステークホルダー(利害関係者)全員が幸福になれる価値のことを、そう呼んでいます。お客様、社員、株主、取引先、地域社会、それと金融機関──。
(中略)
300円を切る価格というのは面白いもので、30年以上やってきた私の経験上、景気やトレンドに左右されず、普遍的に訴求力のある価格なんですね。居酒屋業界では高いと感じるか、安いと感じるかの分岐点が300円。当時も今もそうです〉(『日経ビジネス』2018年9月10日号より)
値ごろ感ギリギリの価格まで値上げして経営基盤の安定化を図る鳥貴族。今後、客数減のダメージを取り戻す価値を創出して、再び顧客の支持拡大に繋げることができるか。専門居酒屋の先駆けとして業態をリードしてきた巨大チェーンだけに、今後の展開に注目したい。