5年ほど前、記者の認知症の母(現在83才)の妄想がいちばんひどかったときのことを、ふと思い出した。
「お金がない、お前が盗っただろう」と1日数十回も電話をかけてきて、私は半ばノイローゼ。当時、中学生だった娘が代わって応対してくれた。
「今、警察に通報してもうすぐそちらに刑事が行くから」と、今振り返ると笑ってしまうようなセリフを母がまくしたて、その勢いに恐れをなした娘がひたすら「うんうん」と聞き、「わかった、ママに伝えておくね」と言って電話を切ったのを覚えている。
思えばまさに『傾聴』だ。
「こういう場合、認知症の人はいちばん信頼する人に疑いを向け、本当に娘が盗ったと思い込んでいますから、盗っていないと反論しても逆効果。認知症は脳の病気ですから、そこは感情を抜きにして理解しなければなりません。娘さんより少し距離のあるお孫さんが対応し、反論せず、“わかった”と締めくくったことがよかったですね」
母の認知症は、今、ほぼ記憶障害のみで、あれほど激しかった妄想はなくなった。
※女性セブン2018年10月11日号