砂田さんは、ディレクターをしていた中学時代の友人すぎやまこういちに頼まれて、青島幸男と二人で時事ネタをコントにしていた。
「ショクナイですよ」
内職を意味する業界用語を使い、砂田さんは楽しそうに語った。朝、フジテレビに行って脚本を書き、昼には何食わぬ顔でTBSに出社する。他局のテレビ番組の台本のほか、コンサートの演出やコマーシャルのコピーなども書いた。
当時のテレビ業界はなんでもアリの世界だったようだが、堂々とショクナイをするのは砂田さんくらいのものだった。おもしろいものの匂いを嗅ぎつける、そんな嗅覚を持っていたようだ。アイデアルという折りたたみ傘のテレビコマーシャルを頼まれ、植木等さんと寝転びなから案を練っていた。
「アイデアル……なんだろうな」とつぶやくと、植木さんが「なんである、アイデアル」と返してきた。それだ! ということになって、あの有名なキャッチコピーになった。
クレージーキャッツの桜井センリのコマーシャル、金鳥の「ルーチョンキ!」も砂田さんが作った。日本放送作家協会CM作品賞なども受賞している。軽くて、ナンセンス。おもしろがりながら、テレビ文化を作り上げていくエネルギーはとても魅力的だったにちがいない。
1961年に発表された植木等の「ドント節」は時代の空気をとらえている。「サラリーマンは気楽な稼業と来たもんだ」という歌詞は、青島幸男の作詞だ。小市民のささやかな楽しみ、自由を謳歌しようという軽やかな気概は、重く、不自由な「会社人間」「社畜」的生き方へのレジスタンスのように感じる。