由紀さんをさらに勇気づけたのが、緩和ケア医との出会いだった。がん患者は、痛みやだるさなど体の症状のほかに、不安や気持ちのつらさといった心の苦痛なども経験する。そうした苦痛を和らげるため、医師・看護師・薬剤師・栄養士などがチームを組んで、患者やその家族を支援、ケアするのが緩和ケアだ。
緩和ケアは1990年頃までは「終末期医療」とされてきたが、2002年からWHO(世界保健機関)が「がん治療の早期から開始すべき積極的な医療」と位置付け、今では、がんと診断された時から積極的に行われるようになってきた。
通院先の緩和ケア科医長だった下山理史さん(現・愛知県がんセンター中央病院・緩和ケア部長)からのアドバイスは、由紀さんを大きく後押しすることとなった。当時の由紀さんの様子を下山さんがこう振り返る。
「相談に来られた時は、娘さんにどんなタイミングで話せばいいのか? 病名を伝えたら動揺して学校生活がままならなくなってしまうのではないか? ということを強く心配されていました。何度か話し合った結果、充分時間がある時に、無理することなく、さやかちゃんが知りたいことに答える感じで話してみては? ということになりました」(下山さん)
下山さんとの打ち合わせを数か月間重ね、由紀さんはさやかちゃんに病名を告げる気持ちを固めた。それが昨年の夏だった。
「夏休みに入ってすぐ、昼間、娘とふたりでいる時を選んで、がんであることを伝えました。『今まで話さなくてごめんね。これからは何でも話すから、何か聞きたいことがあったら何でも聞いてね』って。そうしたら、『ふ~ん、ママ、がんだったんだ』という感じで拍子抜けするというか、『あっ、そう』みたいな反応だったんです」(由紀さん)
それからしばらく無言だったさやかちゃんは、おもむろに黙々と絵を描き始めた。そして、ペンを走らせながらこう言った。
「ママの応援団になる」
イラストやマンガを描き綴るのが好きなさやかちゃんなりの応援宣言。その時、描いてくれた「ママの応援キャラクター」のイラスト。由紀さんは、それをスマホケースに入れて肌身離さずいつも持ち歩いている。
※女性セブン2018年11月1日号