いつ誰の身に起きてもおかしくないと、逆説的に語っているのか。あなたも炎上に荷担する可能性がある、と? いろいろ思考する余地がある点も、リアリティ追求と共に「大人のドラマ」には必要不可欠な要素でしょう。
この秋、もう一本見逃せないリアリティ追求の秀作ドラマが、NHKの『昭和元禄落語心中』(金曜午後10時)。
落語家八代目有楽亭八雲を岡田将生が、八雲と同期の天才・助六を山崎育三郎が、そして八雲の弟子・与太郎を竜星涼が演じています。
この3人、ドラマ撮影が始まる3ヶ月以上前から落語の稽古を開始、撮影中もずっと練習。監修・柳家喬太郎から指導を受けて噺を覚えるだけではなく、実際に客役を入れた舞台上で直に噺を披露するという徹底ぶり。
もちろん、厳密に言えば、落語はたった3ヶ月程度で習得できるような浅い芸ごとではない。制作側もそれは百も承知でしょう。そのあたりさっ引いて見たとしても、このドラマは非常に説得力がある。大きな見所がある。とにかく「役者の気迫」がすごいのです。
画面に引き寄せられ目が離せない。役にかける集中力、リアリティの追求度。演技に真摯に向き合おうとする役者たちの透明感と輝きを目撃できる至福。ドラマを見る醍醐味とは、まさにこのことではないでしょうか?
八雲を演じる岡田将生さんは冒頭、特殊メイクの白髪姿で登場しました。実年齢の倍以上の老人に扮したのですがまったく不自然ではなかった。もし彼が年老いたらこんな感じになるのではないか、と思わせてくれるほど。そのように、一つ一つの人物造形が細やかで繊細で、役者たちの意気込みが伝わってくるのです。
この秋見物の、リアリティをとことん追求する2つの大人ドラマ。もちろん、NHKだから可能になった、という面はあるでしょう。しかし、海外ドラマを見回せばもはやリアリティの追求なんて当たり前。大前提となっています。リアリティを構築したその上で様々なストーリーを自在に転がしていく。だからこそ、世界的ヒットとなるのではないでしょうか。
日本のドラマも制作費用や時間が限られているとか民放だからと諦めず、リアリティやクオリティをさらに追求する心意気が欲しい。完成度の高いドラマを作り上げて、優れたコンテンツとしてアジアやヨーロッパへと輸出し、次の制作費を捻出という「善循環」が構築されて欲しいものです。
日本には「たかがドラマなんだから目くじら立てるな」「およそ作り事、フィクションですから」などとドラマを大目に見る風潮がある。でもそれは、ドラマを最初から「一段低いもの」として扱っている証しかもしれません。もっと普通に評価したい。映画と伍するコンテンツとして鑑賞し批評したい。そのために、さらに品質を追求し大人の鑑賞に耐える秀作が生まれてきて欲しいと思います。