国内

皇居のハマギク 被災地ホテルに「逆境に立ち向かう力」くれた

「三陸花ホテルはまぎく」のベランダに、再び咲いたハマギク(撮影/JMPA)

 天皇皇后両陛下は、全国の国民一人ひとりの目の前に立ち、私たちの言葉に、思いに、幸せに、苦悩に、耳を傾けられる。

「今上天皇ほど、国内外の各地を訪問された天皇はいません。各種資料を丹念に調べると、即位後に限っても『旅』の総移動距離は62万kmを超えます。地球を約15周半もできる距離です。天皇皇后両陛下は、平成の30年間という“マラソンコース”を、一つひとつ丹念に心を込めた旅を通じて“全力疾走”で駆け抜けられたという印象を抱きます」

 そう語るのは、『旅する天皇 平成30年間の旅の記録と秘話』(小学館)を上梓した歴史探訪家で、文筆家の竹内正浩さんだ。平成という時代に、「旅」を通じて寄り添われた両陛下。東日本大震災の被災地も常に気にかけていらっしゃった。

■平成9年(1997年)岩手県

 1997年、岩手県の大槌漁港を訪れた両陛下は、海沿いの「浪板観光ホテル」に宿泊された。その時、近くの崖際に咲く可憐な白い花に目をとめた天皇陛下は、「あの花は何ですか」と同ホテルの常務だった千代川茂さんに尋ねられた。

 それは、日本原産の野菊であるハマギクだった。後日、千代川さんの兄・山崎龍太郎社長はハマギクの苗を皇居に贈った。

 それから14年後、東日本大震災が発生した。町を襲った22mの津波に山崎社長はのみ込まれ、ホテルも営業休止に追い込まれた。

 悪夢から半年後、美智子さまの誕生日に宮内庁が公開した写真には、皇居に咲く真っ白なハマギクが映っていた。

「それを見た千代川さんは、“以前、皇居に贈ったハマギクに違いない”と息をのみました。ハマギクの花言葉は『逆境に立ち向かう』。写真と花言葉に勇気づけられた千代川さんは苦境から立ち上がりホテルの再建を目指しました」(竹内さん、以下同)

 2013年8月、社長となった千代川さんのもと、ホテルは「三陸花ホテルはまぎく」と名を改めて再開された。

■平成28年(2016年)岩手県

 2016年9月、3年ぶりに岩手県入りされた両陛下は、再開したホテルを訪問された。

「お待ちしておりました」

 玄関口で出迎えた千代川さんは万感の思いでそう告げた。

「すると天皇陛下は、千代川さんに『がんばりましたね』と優しく声をかけられました。沖縄や三宅島などと同じく、三陸でも両陛下の旅が苦しむ人々の支えとなったのです」

 千代川さんにとっての「ハマギク」のような勇気と希望を、両陛下は国民に与え続けられた。そんな長い旅が、もうすぐ終わろうとしている。

※女性セブン2018年11月8日号

関連記事

トピックス

ビエンチャン中高一貫校を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月19日、撮影/横田紋子)
《生徒たちと笑顔で交流》愛子さま、エレガントなセパレート風のワンピでラオスの学校を訪問 レース生地と爽やかなライトブルーで親しみやすい印象に
NEWSポストセブン
鳥取の美少女として注目され、高校時代にグラビアデビューを果たした白濱美兎
【名づけ親は地元新聞社】「全鳥取県民の妹」と呼ばれるグラドル白濱美兎 あふれ出る地元愛と東京で気づいた「県民性の違い」
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン
ラオスを公式訪問されている天皇皇后両陛下の長女・愛子さまラオス訪問(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《何もかもが美しく素晴らしい》愛子さま、ラオスでの晩餐会で魅せた着物姿に上がる絶賛の声 「菊」「橘」など縁起の良い柄で示された“親善”のお気持ち
NEWSポストセブン
『ルポ失踪 逃げた人間はどのような人生を送っているのか?』(星海社新書)を9月に上梓したルポライターの松本祐貴氏
『ルポ失踪』著者が明かす「失踪」に魅力を感じた理由 取材を通じて「人生をやり直そうとするエネルギーのすごさに驚かされた」と語る 辛い時は「逃げることも選択肢」と説く
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信フォト)
オフ突入の大谷翔平、怒涛の分刻みCM撮影ラッシュ 持ち時間は1社4時間から2時間に短縮でもスポンサーを感激させる強いこだわり 年末年始は“極秘帰国計画”か 
女性セブン
10月に公然わいせつ罪で逮捕された草間リチャード敬太被告
《グループ脱退を発表》「Aぇ! group」草間リチャード敬太、逮捕直前に見せていた「マスク姿での奇行」 公然わいせつで略式起訴【マスク姿で周囲を徘徊】
NEWSポストセブン
11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《巨人の魅力はなんですか?》争奪戦の前田健太にファンが直球質問、ザワつくイベント会場で明かしていた本音「給料面とか、食堂の食べ物がいいとか…」
NEWSポストセブン
65歳ストーカー女性からの被害状況を明かした中村敬斗(時事通信フォト)
《恐怖の粘着メッセージ》中村敬斗選手(25)へのつきまといで65歳の女が逮捕 容疑者がインスタ投稿していた「愛の言葉」 SNS時代の深刻なストーカー被害
NEWSポストセブン
俳優の水上恒司が年上女性と真剣交際していることがわかった
「はい!お付き合いしています」水上恒司(26)が“秒速回答、背景にあった恋愛哲学「ごまかすのは相手に失礼」
NEWSポストセブン
三田寛子と能條愛未は同じアイドル出身(右は時事通信)
《梨園に誕生する元アイドルの嫁姑》三田寛子と能條愛未の関係はうまくいくか? 乃木坂46時代の経験も強み、義母に素直に甘えられるかがカギに
NEWSポストセブン
大谷翔平選手、妻・真美子さんの“デコピンコーデ”が話題に(Xより)
《大谷選手の隣で“控えめ”スマイル》真美子さん、MVP受賞の場で披露の“デコピン色ワンピ”は入手困難品…ブランドが回答「ブティックにも一般のお客様から問い合わせを頂いています」
NEWSポストセブン