まず、どれだけの資金が必要だろうか。1口300円だから、300円×1029万5472通りで、30億8864万1600円が必要となる。30億円以上もの資金が必要となり、よほどの大富豪でもないと、この作戦はとれなさそうだ。それでも、何とかこのお金を捻出できたとしよう。
つぎに、全部のくじを買ったときにいくら受け取れるだろうか。1等~6等のそれぞれについて、当せんの口数と理論上の当せん金額を掛け算して、それを合計する。すると、13億6920万6900円となる。つまり、約30.9億円を支払って、約13.7億円を受け取る結果となる。これでは、17億円以上も損失が発生してしまう。
キャリーオーバーで、1等の当せん金額が最高の10億円になっていた場合はどうか。この場合、受取額は約17.7億円となるが、それでも13億円以上の損失が出てしまう。やはり、濡れ手で粟をつかむような、うまい話はそうそう転がっていないということになる。
実はかつて、アメリカの宝くじで、全部買いに関する有名な出来事があった。
1990年代に、バージニア州では、1口1ドルの数字選択式宝くじを販売していた。当時、この州の宝くじは、1から44までの数字から6つを選び、それらがすべて当たりの数字と一致していたら、1等となるものだった。
全部買いには、約700万通りのくじの購入が必要となる。この規模であれば、何とか実行可能とみられた。この点に目をつけて、宝くじ購入のためのファンドが結成された。このファンドは、世界中の2500人以上の人々から資金を募った。そして、この州の宝くじで1等の当せんが出ずに、キャリーオーバーが積み重なっていく機会を待った。
1992年2月に、2700万ドルのキャリーオーバーが発生した段階で、ついに、このファンドは全部買いに着手した。短い販売期間中に、ファンドに雇われた購入者が手分けをして、125もの食品雑貨店やコンビニエンスストアなどの宝くじ売り場で、別々の番号のくじを購入していった。
ところが、購入の途中で、売り場のくじが売り切れとなるトラブルが発生して、約500万通りしか購入できない事態に陥った。もし、購入できなかったくじから1等の当せんが出たら大失敗となる。
また、もう1つの大きなリスクとして、1等のくじが複数出てしまう可能性もあった。そうなれば、1等を当てたとしても、当せん金は大きく減ってしまうことになる。
しかし幸運にも、購入した約500万通りの中から1等の番号が出て、しかも1等を当てた宝くじはその1枚だけだった。ファンドは1等の当せん金として、2700万ドルを受け取った。2等や3等などもあわせると、当せん金の総額は3000万ドル以上となった。
なお現在は、数字を選択するパターンの数が増えており、こうした全部買いは困難といわれている。
宝くじを買うときには、全部買いなどという突拍子もないことは考えずに、ささやかにココロの刺激を楽しむ程度がいいのではないかと思われるが、いかがだろうか。