韓国では近年、ドラマや映画それにメディア報道における「日帝モノ」はほとんどが抗日独立闘争モノである。しかもその内容は日本の官憲をバッタバッタと撃ち殺すような“戦勝物語”になっている。お馴染みの慰安婦モノだって、最後は日本軍の基地に抗日独立軍が攻めてきて少女たちを日本軍の魔手から救い出した(たとえば映画『鬼郷』)という話だし、昨年の映画『軍艦島』も朝鮮人炭鉱労働者が武装決起し、日本側との戦いに勝って島からの脱出に成功するというものだった。
つまり韓国では今や「勝った! 勝った!」の「対日戦勝史観」が大衆の間で広がっているのだ。その方が楽しく悩まずにすむからだ。そのポピュリズム史観に乗って大統領も堂々と自力解放論を主張するにいたった。近年、韓国世論が日本の自衛艦旗など旭日旗に対し「戦犯旗」などといってしきりにイチャモンをつけるのも、擬似・対日戦勝史観の産物である。
こうした歴史偽造、歴史歪曲は今後、おそらく対日関係だけにとどまらないだろう。予言しておくが、最近の親北・南北融和ムードがこのまま進めば「6・25(朝鮮戦争)」についても同じような歴史歪曲が始まるに違いない。つまり「6・25は北朝鮮の武力南侵によって引き起こされたもので北は侵略者である」という公認の歴史観を修正ないし否定し、北朝鮮に免罪符を与える動きが必ず出てくるということだ。
すでに学校教育では「北が貧乏なのはアメリカがいじめているから」などと教えている。文在寅政権下で南北融和・同族論が強まっており「あの戦争は米韓が始めたもので北は被害者」という“大逆転〟まではあとひと息だ。
ただ、反日は歴史偽造だろうが何だろうがやりたい放題で勝手にやれるが、反米にはそれでも世論の抵抗がある。アメリカも黙ってはいないだろう。政権中枢には“反米民族主義”史観がとぐろを巻いているが、今後は反日もさることながら反米にも要注意である。
●取材・文/黒田勝弘
【PROFILE】くろだ・かつひろ/1941年生まれ。京都大学卒業。共同通信ソウル支局長、産経新聞ソウル支局長を経て産経新聞ソウル駐在客員論説委員。著書に『決定版どうしても“日本離れ”できない韓国』(文春新書)、『隣国への足跡』(KADOKAWA刊)など多数。
※SAPIO2018年11・12月号