Aちゃんたちも例外ではなかった。母親がつけていた記録によれば、学校と話し合った結果Aちゃんは校長室に登校するようになった。しかし一部の児童が「Aちゃんは休んでどこかで遊んでいる」と発言し、それを知ったAちゃんは、頭痛や食欲不振、不眠が悪化して小児科を受診した。
◆驚愕の言葉が発せられた
7月に入ったばかりのある日、Aちゃんは自宅で立て続けにこう発言した。
「こころのきずはなおらない」
「いきていていいことがない」
「しんでしまいたい」
8才の口から出た言葉に驚愕した母親は、発言内容を校長や宮城県総合教育センター、仙台弁護士会、仙台市教育委員会にも相談したが、問題は解決に向かわなかった。
それどころか、Aちゃんの心身状態はさらに悪化してゆく。Aちゃんの父親の代理人を務め、母親が遺した記録にも目を通した、全国自死遺族連絡会代表理事の田中幸子さんが言う。
「Aちゃんはストレスのため頭痛や腹痛、睡眠障害が生じ、赤ちゃん返りで甘えるようになったそうです。母親がいないと何もできない状態に戻ってしまったので、小児科の先生が学校を休ませるようアドバイスしたと聞いています」
成績優秀、スポーツも得意だったAちゃんは、大好きだった習い事も休み、初対面の人や久しぶりに会う人に恐怖心を抱いて、母親の後ろに隠れるようになったという。
夏休み中、父親の故郷である北海道に旅行した際は一時的に症状が治まった。しかし、だからこそ母の今後への不安は大きくなってゆく。
《北海道に行っている間は腹痛が落ち着いていた。眠れていた》
《昨日は子供病院でお腹のけんさ→問題なかったのでストレス性のもの》
体調が快方に向かったことを書き留める一方で、
《その後は、どうなっているのか?》
《夏休み中は、難しいということですよね?》
と気がかりな心境も吐露している。実際、母の不安は的中し、Aちゃんは夏休み明けからふたたび、腹痛や不眠に苦しむようになる。「しにたい」というメモをAちゃんが記したのもこの頃だ。
「Aちゃんはよく、『おかあさんありがとう』とかわいい折り紙の後ろに書いたお手紙を母親に渡していたと聞いています。ところがこの時は『しにたい』というメモがテーブルに折りたたまれていた。それに気づいたお母さんは大変なショックを受けて、すぐお父さんに相談したそうです」(田中さん)
愛する娘が心身を病み、「しにたい」と口にしたら、母親の胸は張り裂けそうになるはずだ。Aちゃんの母親はそんな気持ちを抑えて、“母として何ができるか”を一心に考えた。
母親が遺したメモには、苦しむ娘に伝えるべき言葉を懸命に編み出し、自らにも何かを言い聞かせていたような痕跡が見て取れる。