同じ作者の『夜間飛行』、『人間の土地』は、世界七大陸最高峰からの滑降に挑戦し始めた30代の頃に初めて読みました。いずれも飛行機を操縦することがまだ命がけの冒険だった頃の話ですが、単なる冒険物語ではなく、人類愛を感じます。サン=テグジュペリの作品は自分の感性を磨いてくれました。
僕がエベレストから滑降したり、エベレストに登頂したりするきっかけとなったのが、1953年に人類で初めてエベレストへの登頂に成功したニュージーランド人エドモンド・ヒラリーによるドキュメント『わがエヴェレスト』です。
登頂の3年後に日本語訳が出てすぐに読みました。当時エベレストに登るのは月と同じくらい遠い世界に行く感覚だったので、登頂成功のニュース自体に興奮しました。そして、彼の本を読んで感動し、「冒険」「人類初」ということに強く憧れ、いつか自分も、という願望を抱いたのです。
それが最初に形になったのが、1966年の富士山での直滑降です。翌年、それに注目したニュージーランド政府から招待され、ヒラリーさんにお会いしました。お宅に飾ってあるエベレストの写真を見て、僕は「ここからスキーで滑ってみたい」と言いました。ヒラリーさんからは「人類は不可能に挑戦し、壁を越えてきた。君には可能性があるのではないか」と言ってもらいました。その夢を実現したのは70年のことでした。
サン=テグジュペリの本とともに、必ずと言っていいくらい山に持っていくのが開高健さんの本です。1950年代の末だったか、開高さんも僕も新聞社が選ぶ「これからの日本人100人」に入るなど若い頃から接点があり、『日本人の遊び場』などのルポルタージュを読んで大ファンになりました。