「子どもを虐待することは絶対に許されないことですが、虐待問題の根本的な解決を図る上では、虐待する親も“支援を必要としている”という視点が重要だと考えます。そうした総合的な視点から、なんとか児童虐待を防ぐ取り組みが求められます」(舟木氏、以下同)
◆「だいじょーぶ」と頭をなでられ……
子育ては、時にストレスの原因にもなる。赤ちゃんの夜泣きに悩まされたり、病気の子どもをつきっきりで看病したりした経験は、ほとんどの親が経験しているだろう。子どものことが心配で眠れなくなったり、しつけがうまくできずにイライラがつのったりすることも多い。
しかし、その一方で、喜んでいる子どもの笑顔や成長している姿を見れば、仕事や人間関係などで溜まっていたいろいろなストレスが、一気に吹き飛ぶこともある。
「家庭で子どもと接することでストレスが軽くなったように感じるのは、ストレス対処力の異名を持つ『首尾一貫感覚』とも関係があるのではないかと思います。首尾一貫感覚の一つに“どんなことにも意味がある”と思える『有意味感』がありますが、これは自分のことよりも他人の幸福を願う『利他』の精神と関係が深い感覚です。
子どものために行動することで、親は自分の生きる意味を見いだし、同時に親としての自覚や自信も深まっていきます。子どもの成長を見るにつけ、自分の『有意味感』が高まる好循環が生まれるのです」
それどころか、メンタル面で弱っていた母親を、3歳の子どもが救ってくれた例もあるという。
「私のクライアント(カウンセリングを受けにきた人)で、仕事と育児に疲れてしまったお母さんがいました。そのお母さんは、一時は3歳の自分の子どもの前で泣いてしまうほど精神的に追い詰められていたのですが、あるとき3歳の子どもに『だいじょーぶ』と言って頭をなでられたそうです。
このような子どもの行動は、お子さん自身が悲しかった時に、お母さんから『大丈夫よ』と言われて頭をなでてもらったことで安心したり、元気になったりした経験からきているわけですが、実はこの『大丈夫』という言葉は、大きなストレスを抱えていたり、精神的に弱っていたりする場面で威力を発揮する、万能のキーワードなのです。この3歳のお子さんは、自分なりにお母さんを元気づけようと考えて、万能のキーワードを選んだわけです。
実際、そのお母さんは、『あなたに“大丈夫”と言われても……』と思いながらも、クスッと笑っている自分に気づいたそうです。そして、結果的に自分の悩んでいたことが小さく思えて、心が救われたそうです」