「僕は2003年に旅に出る前、やはり吃音に関する記事を書いたことがあります。当時旅に暮らし、物を書くことで生きる道を模索していた僕にとって、それが初めて雑誌に載った文章でした。
そして2008年に帰国して、再度このテーマに取り組み始めた2013年の6月、NHK『バリバラ』の収録現場で高橋さんと出会った。彼は当時、僕も吃音でしたとは言えないほどどもっていて、なのに娘さんに話すときは平気だったり、症状にブレがあるのも吃音の難しさなんです。
僕自身は死のうとまでは思わなかったけれど、そのひと月後には札幌の新人看護師の男性が吃音を苦に亡くなられたこともあり、自分がテレビに出ることで吃音に悩む人の力になれればと言う高橋さんのことをもっと知りたいと思った。
実は彼はこの出演を機に名古屋で相談室を開く言語聴覚士・羽佐田竜二さんと再会し、治療に再挑戦するのですが、本書はそれから5年間の彼の変化を追った人生の記録でもあります」
古くは病院で扱われることもなく、しつけのせいにもされた吃音のメカニズムは、実は今も解明されていない。特に日本は脳機能の器質的研究自体手つかずで、自身も吃音をもつ九州大学病院の菊池良和氏や前述の羽佐田氏らがかろうじて臨床にあたっているが、〈治すのか 受け入れるのか〉で立場は大きく異なる。
例えば1966年設立の自助団体〈言友会〉では、1976年に伊藤伸二氏らが〈吃音を治そうとするべきではない。いかに受け入れて生きていくかを考えよう〉とする『吃音者宣言』を採択。近藤氏は〈本当にそうなのだろうか〉と違和感を綴る。