その後、水処理装置はO社からP社に納入され、P社は代金として約3億円を支払った。P社の在庫記録を見ると、“一時的に買い取った装置”が倉庫に保管されていることがわかる。
だが、それらが買い戻されることはなく、P社が東レの日覺社長に対して連帯保証契約の履行を求めたところ、「架空契約」が発覚した。筆者が入手した取引資料から調べると、同様の「架空取引契約」はP社を含めて約10社、動いた資金は総計5億4000万円にのぼることが読み取れる。
◆バングラに売却予定の装置
以上の情報からは、「F氏が東レの“看板”を使い、O社と協力してP社などから資金を騙し取った」──そんな構図が推測される。だが、前出のP社幹部は、
「F氏から取引に際してキックバックなどを求められたことはない。O社への振込手続きにもおかしな内容はなかった。すべてF氏の独断という印象は持たなかった」とも語る。
そもそも買い戻しが行なわれなければ、P社らが東レに契約内容を確認することは当然の流れであり、架空契約があっさり露見することは想像に難くない。そうなればF氏は職を失った上、刑事罰を受ける可能性さえある。大企業の営業部長まで登り詰めた“辣腕エリート”にしては、いささか短絡的にすぎる行動にも思える。
もうひとつ不思議なのは、F氏が“売却”しようとした装置の特徴だ。東レと取引のある財界関係者が言う。