「問題の水処理装置は、本来なら今頃、バングラデシュのプラントに納入されているはずだった。ところが2016年7月に首都・ダッカで日本人7人を含む22人が犠牲になったテロが発生して、プラント計画が頓挫。そのため約15億円分相当の装置が売り先を失ってしまった」
F氏がP社に説明したとされる話とも符合するが、これらの水処理装置が東レにとって“厄介な在庫”だったという指摘である。水処理事業部の営業部長であるF氏としてみれば、その状態を解消しなくてはという焦り、あるいは使命感があったのだろうか。
取引書類に記載されたF氏の自宅を訪ねたが、F氏は不在だった。また、問題の取引の「販売元」のO社は、社の代表番号に連絡が通じない状態が続いている。東レはどう説明するのか。
同社広報室は「元従業員の不正行為に関して、2月12日に告訴状を提出しております」と説明するが、契約書の偽造や契約内容、さらにはP社らへの対応についての質問には「今後の捜査に影響を与える可能性があるので回答を控えさせていただきたい」と回答した。また、社としての管理責任についてはこう答えた。
「契約書管理の徹底を既に実施し、顧客審査の徹底、決裁プロセスの改善など、不正が起こらないように今後も厳格な社内管理を行っていく所存です」
事は数億円が動いた“架空商談”であり、東レグループの取引先は国内5000社に及ぶ。捜査の進展を待つだけでなく、取引先や株主への説明を果たす責任も問われるのではないか。
※週刊ポスト2019年3月29日号