ゴーンは日頃、高額報酬を要求することが多い米国人の登用を敬遠する節があったので、ケリーの重用は意外でした。ゴーンに理由を訊くと、「ルノーと折衝するのに適役だ」という。確かに米国の弁護士資格を持ち、言葉の壁もない。一理あると受け止めて強く反対しなかったのですが、今となって振り返れば、甘い考えだったと思います。
〈現社長の西川氏、そして小枝氏ら、ゴーン氏の“独裁”を許した日産の新旧経営陣の責任もあるだろう。また“ゴーン氏を社内で追及できないから、検察との司法取引を利用してクーデターを起こしたのではないか”という現経営陣への批判も根強くある。しかし、小枝氏はその見方を否定した〉
内部通報から始まった調査でゴーンの不正を知った西川社長はただちに本格的な調査を行なうように関係者に指示を出した。その矢先に事件性について捜査していた地検特捜部が証拠を固め、逮捕に至ったものだと理解しています。東京地検特捜部は、一民間企業の依頼で、逮捕に動く組織ではないでしょう。
もちろん、ゴーンの不正を許した日産のガバナンス体制の改革は喫緊の課題です。指名委員会等設置会社になるなど、仕組みを変える意味もあるでしょう。ただ、重要なのは執行部です。
執行部が強い体制なら、広い視点から社外取締役が有効なアドバイスをくれる。今その体制づくりの中心は、西川社長です。
西川社長とは個人的な付き合いは深くないが、今回のような不正とは縁遠い真面目な男です。彼が購買統括の立場だった時の話ですが、購買部門では年1回、取引先を招いたゴルフコンペがあって、彼が主催者で挨拶する立場になる。ところが、彼はゴルフをやらない。それでも、パーティが始まる2時間も前からラウンド後の懇親会場で待っています。プレーしない人間が挨拶するから雰囲気は多少、壊れるけれど、悪い男ではないとわかるでしょう。
日産の危機に、団結して西川社長を支えてほしいというのが、いちOBとしての私の願いです。