森泰吉郎氏が創業した森ビルは次男・森稔氏が継ぎ、六本木ヒルズなどを手がけた。一方、三男・森章氏が社長となったグループ会社(森ビル開発)は森トラストとして独立、丸の内トラストタワーなどを開発した。2社ともに代替わりの時期を迎えている。
「森トラストは2016年、長女である伊達美和子氏が後を継ぎました。章氏には3人の子供がいて全員森トラストに入社しましたが、長男と次男はすでに退社し、伊達氏が後継者となった。
一方の森ビルは稔氏が2012年に死去後、現在は内部昇格した辻慎吾氏が社長を務めていますが、本来は森浩生・副社長が後継候補とされています。六本木ヒルズで2004年に回転ドアによる死亡事故があったことなどが、ここまで社長人事を遅らせる要因になったとされている。そろそろ“禊”が済むタイミングではないでしょうか」(前出・関氏)
創業家による企業経営について研究する後藤俊夫・日本経済大学大学院特任教授は、代替わりの課題をこう見る。
「企業にとっての創業家の役割は、経営者や株主として存在することで組織に安心感を与える大黒柱のようなものです。最近では、株価の安定や業績アップに寄与しているという研究結果も発表されている。
ただし、創業家が経営に関与するデメリットもあります。昭和シェルとの合併に創業家が反対した出光のように創業家と会社が対立する例、あるいは大塚家具のように創業家内部で対立する例など、一歩間違えると創業家が内紛のきっかけになってしまいかねないのです。
たとえば創業家が一族以外に経営を任せる場合、欧米では業績や株価の目標を定めた契約書を交わすなど、同族経営を持続させるためにしっかりした体制を整えていますが、日本の同族経営はナァナァでやってしまうことが多い。そこをクリアにすることが課題でしょう」
有力企業の創業家の動向は、日本経済の今後を左右するかもしれない。
※週刊ポスト2019年5月3・10日号