芸能

メキシコ版『ドキュメンタル』で浮かび上がった松本人志の功罪

ドキュメンタル海外版はメキシコ版から(イラスト/ヨシムラヒロム)

ドキュメンタル海外版はメキシコ版から(イラスト/ヨシムラヒロム)

 松本人志は、お笑い番組のフォーマットで国境を越える笑いの勝負に出ているのかもしれない。『HITOSHI MATSUMOTO presents ドキュメンタル』(Amazonプライム・ビデオ)のメキシコ版『LOL:Last One Laughing』が日本向けにも公開された。昨年、メキシコを含む200カ国で公開された同番組について、イラストレーターでコラムニストのヨシムラヒロム氏が、日本の笑いは国境を越えられるのかについて考えた。

 * * *
 日夜、多くの番組が配信されるAmazonプライム・ビデオ。そのなかで最も多くの人に観られているのが『HITOSHI MATSUMOTO presents ドキュメンタル』シリーズだ。

 参加費の自腹100万を握りしめ、参戦するのは松本人志が選出した10人の芸人。彼らは1つの部屋に集められ、6時間の笑わせ合いを課せられる。3回笑えば脱落、最後まで残った芸人が優勝賞金1100万円を獲得する。

 そんな『ドキュメンタル』が新たな展開を迎えた。『LOL:Last One Laughing』と名義を変えて、メキシコに進出。基本設定はそのまま、メキシコの芸人がお笑いバトルに挑む。

 冒頭、参加費10万ペソ(日本円で約60万円)を持った10人の芸人が部屋に集まる。メキシコ版の松本役を務めるデルベスが「お金を集めるのは大変だったかい?」と聞きつつ、参加費を回収。メキシコ芸人それぞれが10万ペソを集める苦労を語る。

「パトロンがくれたんだ、初めてのことをした。何か言えないが金はそろった。3日間、動けなかったが……」と話すのはコメディアンのマヌ・ナ。メキシコといえば現在も麻薬戦争が続く国。いくつもの組織が激しい縄張り争いを繰り返し、取り締まりにも暴力で抵抗する。現在はピークを超えたと本で読んだが、メキシコ人の口から“何か言えない”と聞けば、闇社会とのつながりを推察したくもなる。

「恋人と共同で貯めた車購入費」を持ってきたアレックス、しんみりと「親に借りた」と話すカルロス。日本と比べ、メキシコの芸人がリッチではないことが分かる。

 こんな懐事情の違いが『ドキュメンタル』のゲーム性を変化させる。言ってしまえば、日本版は“笑いの会員制クラブ”。売れっ子芸人だけが会員権を持つ。よって、勝つことよりも「場を楽しみたい」「伝説的な笑いを作りたい」といったプライドが表出される。打って変わり、メキシコ版は「勝つこと」こそが全て。日本版と比べて競技性が高い番組に仕上がっていた。

 そして、肝心の笑いである。日本版と比べ、見劣りは否めない。兎に角、連呼される「カカ!」。番組中50回以上は出てくる言葉だ。日本語に直訳すれば「うんこ!」である。確かに日本版でも下ネタは多い。人を笑わせることを追求すると、下ネタに行き着くのは世界共通らしい。ただ、日本の芸人は「うんこ!うんこ!」と連呼しない。下ネタにしてもどこか工夫がある。

関連キーワード

関連記事

トピックス

大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
大ヒット中の映画『4月になれば彼女は』
『四月になれば彼女は』主演の佐藤健が見せた「座長」としての覚悟 スタッフを感動させた「極寒の海でのサプライズ」
NEWSポストセブン
国が認めた初めての“女ヤクザ”西村まこさん
犬の糞を焼きそばパンに…悪魔の子と呼ばれた少女時代 裏社会史上初の女暴力団員が350万円で売りつけた女性の末路【ヤクザ博士インタビュー】
NEWSポストセブン
華々しい復帰を飾った石原さとみ
【俳優活動再開】石原さとみ 大学生から“肌荒れした母親”まで、映画&連ドラ復帰作で見せた“激しい振り幅”
週刊ポスト
中国「抗日作品」多数出演の井上朋子さん
中国「抗日作品」多数出演の日本人女優・井上朋子さん告白 現地の芸能界は「強烈な縁故社会」女優が事務所社長に露骨な誘いも
NEWSポストセブン
死体損壊容疑で逮捕された平山容疑者(インスタグラムより)
【那須焼損2遺体】「アニキに頼まれただけ」容疑者はサッカー部キャプテンまで務めた「仲間思いで頼まれたらやる男」同級生の意外な共通認識
NEWSポストセブン
学歴詐称疑惑が再燃し、苦境に立つ小池百合子・東京都知事(写真左/時事通信フォト)
小池百合子・東京都知事、学歴詐称問題再燃も馬耳東風 国政復帰を念頭に“小池政治塾”2期生を募集し準備に余念なし
週刊ポスト
(左から)中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏による名物座談会
【江本孟紀×中畑清×達川光男 順位予想やり直し座談会】「サトテル、変わってないぞ!」「筒香は巨人に欲しかった」言いたい放題の120分
週刊ポスト
大谷翔平
大谷翔平、ハワイの25億円別荘購入に心配の声多数 “お金がらみ”で繰り返される「水原容疑者の悪しき影響」
NEWSポストセブン
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
女性セブン
ホワイトのロングドレスで初めて明治神宮を参拝された(4月、東京・渋谷区。写真/JMPA)
宮内庁インスタグラムがもたらす愛子さまと悠仁さまの“分断” 「いいね」の数が人気投票化、女性天皇を巡る議論に影響も
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン