◆慎重な準備が必要な首脳会談
結果的に成功とはいえなかった首脳会談だったが、2002年の首脳会談は、事前に外務省幹部と北朝鮮高官が約1年、計25回の極秘折衝を重ねた(「日本経済新聞」2018年9月9日)。その成果として早期の国交正常化をめざす日朝平壌宣言をつくり上げ、両首脳が発表することが出来たのだ。
日朝平壌宣言とは、日本は過去の植民地支配を謝罪、日朝双方は終戦までの財産・請求権を相互に放棄したうえで経済協力を実施することを明記。経済協力の実施時期は国交正常化後で、正常化は拉致、核、ミサイル問題などの包括的解決を前提としている。
経済協力は(1)無償資金協力(2)低金利の長期借款供与(3)国際機関を通じた人道主義的支援(4)国際協力銀行などによる融資、信用供与──などとなっている。宣言では日本が植民地支配を謝罪しているのに対し、拉致問題は「懸案」などの表現にとどまっている。
◆第2回日朝首脳会談「百年の宿敵」(2004年5月22日)
小泉首相の2度目の訪朝の直前から、北朝鮮は日本による過去の植民地支配を強調するなど反日教育を強化した。国営『朝鮮中央テレビ』は5月6日、平壌市内の中央階級教育館に多くの市民が参観する様子を伝え、同教育館を〈日帝の永遠の罪悪を全世界に暴露する歴史の告発場〉と伝えた。
これ以降も、参観が相次いでいるとのニュースを連日報じ、10日には〈日本は不誠実な姿勢を捨て過去の罪悪を反省して徹底的に補償すべきだ〉との市民の声を紹介している。さらに、『労働新聞』も「百年の宿敵、日帝の罪悪を必ず清算する」との連載を開始した。
過去の植民地問題をめぐっては、2002年の日朝平壌宣言で、国交正常化後に日本が経済協力を実施するのと引き換えに〈1945年8月15日以前に生じた事由に基づく両国およびその国民すべての財産および請求権を相互に放棄する〉と明記されていたのだが、日朝共同宣言はまったく無視されていたのである。
さらに、訪朝直前(2004年5月)に「日本は歴史的に、わが人民にあらゆる苦痛と災難を負わせた不倶戴天の宿敵である」と題した内部文書を朝鮮人民軍出版社が発行している。
この文書では、冒頭で〈日本軍国主義は、歴史的にわが国を侵略し、罪の無い人民を殺戮し、わが国の資源を略奪していった不倶戴天の敵である〉という金正日の言葉を紹介し、実に12世紀から現在までの日本の「軍国主義化」について解説している。
つまり、2度目の首脳会談に北朝鮮は前向きではなかったのだ。とはいえ、北朝鮮は首脳会談で拉致問題解決に前向きな姿勢を国際社会に示し、小泉首相から日朝平壌宣言を順守する限り制裁措置を発動しないという言質や、コメ、医薬品など人道支援を得た。