翌年は同じく久世演出のTBSドラマ『寺内貫太郎一家』に出演。ここでも寺内家のお手伝いさん役を演じ、樹木希林と共演している。
「この二本が私の基本です。希林さんは『あの時代に芝居の間とか、そういうのは全て勉強しているはずなんだから』って言われましたね。まだまだですが。
希林さんに言われたのは、たとえば『ト書を気にするな』とか。台本のト書に『泣く美代子』と書いてあったとして、それを気にしちゃうと『泣く芝居』をするからダメだって。泣かなくてもいいんだって言うんです。
ようするに、涙なんて出なくていい。気持ちさえあれば、絶対に伝わるから──ということなんですよね。泣こう、涙を出そうというのが頭に入っていると、芝居が嘘になってしまう。
それから、台本の自分のセリフの箇所に役名の『美代子』と書いてあるんですが、そこにピンクのマーカーをつけていたんですよね。それに対して希林さんが『こういうことしちゃダメよ』と。『え、なんで?』と聞いたら『それじゃ、そこだけ浮き出ちゃうから、自分のセリフしか見えないでしょ』って。それから台本の自分のセリフにマークしないようにしたんですよね。
後になって、『日曜劇場』でショーケン(萩原健一)と夫婦役をやった時、私の台本を見て『全然勉強してねえんだな~』ってショーケンに言われて。『違います。希林さんにそう言われたから、それをずっと守っているんです』と言い返しました」
■撮影:藤岡雅樹
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中
※週刊ポスト2019年6月14日号