ライフ

中野信子氏が解説「パワハラ、セクハラの上手な切り抜け方」

脳科学者の中野信子氏

 あおり運転、暴走老人、パワハラ、児童虐待など、怒りを抑えられず、キレる行為によって引き起こされる事件が後を絶たず、「キレる人は悪い人」と思っている人も多いのではないだろうか。ところが、『キレる! 脳科学から見た「メカニズム」「対処法」「活用術」』(小学館新書)を上梓した脳科学者の中野信子氏は、「キレられっぱなしでは、攻撃のターゲットになるだけ。賢くキレる技術こそこれからの時代を生き抜くために必要」と警告する。著者の中野さんに話を聞いた。

 * * *
──キレる人にはなりたくないし、キレる人とは付き合いたくないと考える人が多いと思います。

中野:怒りの感情は科学的に、人にとって必要不可欠のものです。問題は、キレるという行為をどのようにコントロールするのかです。怒りの感情と付き合うことは、生きていく上で避けることはできません。その感情への対処方法を身に付けることが重要です。

 しかしながら、日本では、怒りを感じても我慢して丸く収めようとする人が多すぎるように思われます。もめ事を起こした人をそれだけで「ダメな人」だと烙印を押してしまう風潮があります。「事を荒立てるのはよくない」「波風を立ててはいけない」と教育されてくることも一因でしょう。

 確かに、自分さえ我慢しておけばと思うほうが、一時的には問題を回避できるでしょう。しかし、言いたいことを言わないでいると、不満が蓄積して大きくなり、それが爆発すれば、その時こそ、「問題」になってしまうことでしょう。

──怒りを感じた時にはどうすればよいのでしょうか?

中野:自分が不当に扱われていることに対して怒りを感じたら、我慢するのではなく、正当な理由をもって切り返すべきです。さもないと、相手は「この人は何を言ってもOKだ」とみなし、さらに攻撃をエスカレートさせてきます。そして、その後も搾取され続けることになるでしょう。

 また、相手は「攻める快楽」を覚えているので、やすやすとは攻撃から解放してくれなくなります。「モラハラ」という快楽を搾取する上司やパートナーがそうです。それ以上の攻撃を避けるためには、上手に言い返すスキルを身に付けておくべきだと思うのです。

 ここで大切なのは、単に感情に任せてキレるのではなく、テクニカルにキレることです。「攻撃してもよい相手」「嫌みを言われやすい人」にならないための賢いキレ方を身に付けることは、これからの時代を生き抜く上で大切なリソースになるはずです。

──会社で、上司のパワハラを受けないためにも有効な会話術がありますか?

中野:よく観察していると、会社でも一目置かれている人は、上手に言い返しているのではないでしょうか?

 相手の攻撃の対象になるのを避けるためには、「攻撃するのは面倒だ」と思わせることが有効です。攻撃的な人は、言い返してこないと思う相手を攻撃するケースが多いので、「私はちゃんと言い返しますよ」「私を攻撃して痛めつけることはそれほど簡単ではありませんよ」ということを示すことが重要です。相手は面倒な相手だと思い、ターゲットを変えるようになります。

 例えば、相手にののしられた時に、「そこまで言い切りますか? 私は課長を聡明な方だと認識していたのですが、リスクの高い言い方をわざわざ課長が選んでいらっしゃるのは不思議です。パワハラが問題にされやすいこのご時世になぜですか?」などと、まずはシンプルに、相手の真意をただすようにして、自分の不快感を伝えてみましょう。言葉で言うことができなくとも、「そういうことを言っているあなたは、上司としていかがなものでしょうか」という表情はできるのではないでしょうか? 相手に自分の行為の卑劣さに気づかせ、後ろめたさを感じさせることがこの言動のねらいです。

 勇気がいることではありますが、相手に対して「自分は悪くないのに不当な扱いを受けている」ということを示す行動こそ、自分で自分を大事にするという行為そのものなのです。

関連キーワード

関連記事

トピックス

全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる
JR東日本はクマとの衝突で71件の輸送障害 保線作業員はクマ撃退スプレーを携行、出没状況を踏まえて忌避剤を散布 貨物列車と衝突すれば首都圏の生活に大きな影響出るか
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
(写真/イメージマート)
《全国で被害多発》クマ騒動とコロナ騒動の共通点 “新しい恐怖”にどう立ち向かえばいいのか【石原壮一郎氏が解説】
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
ことし“冬眠しないクマ”は増えるのか? 熊研究の権威・坪田敏男教授が語る“リアルなクマ分析”「エサが足りずイライラ状態になっている」
ことし“冬眠しないクマ”は増えるのか? 熊研究の権威・坪田敏男教授が語る“リアルなクマ分析”「エサが足りずイライラ状態になっている」
NEWSポストセブン
“ポケットイン”で話題になった劉勁松アジア局長(時事通信フォト)
“両手ポケットイン”中国外交官が「ニコニコ笑顔」で「握手のため自ら手を差し伸べた」“意外な相手”とは【日中局長会議の動画がアジアで波紋】
NEWSポストセブン
11月10日、金屏風の前で婚約会見を行った歌舞伎俳優の中村橋之助と元乃木坂46で女優の能條愛未
《中村橋之助&能條愛未が歌舞伎界で12年9か月ぶりの金屏風会見》三田寛子、藤原紀香、前田愛…一家を支える完璧で最強な“梨園の妻”たち
女性セブン
土曜プレミアムで放送される映画『テルマエ・ロマエ』
《一連の騒動の影響は?》フジテレビ特番枠『土曜プレミアム』に異変 かつての映画枠『ゴールデン洋画劇場』に回帰か、それとも苦渋の選択か 
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン
ラオスを公式訪問されている天皇皇后両陛下の長女・愛子さまラオス訪問(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《何もかもが美しく素晴らしい》愛子さま、ラオスでの晩餐会で魅せた着物姿に上がる絶賛の声 「菊」「橘」など縁起の良い柄で示された“親善”のお気持ち
NEWSポストセブン